変な話

ちいさな物語

#420 自販機に選ばれし者

その自販機は、商店街の外れにひっそりと置かれていた。パッと見は普通のドリンク自販機だ。ラインナップもコーラ、緑茶、スポーツドリンク、缶コーヒーと一見なんの変哲もない。しかし、その自販機には奇妙な噂があった。「客を選ぶ」らしいのだ。どういうこ...
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#416 取り扱い注意! 人間充電器

いや、これマジの話なんだけどさ、人間がスマホみたいに充電できるようになったんだよ。最初にニュースでその技術が紹介されたとき、さすがに冗談かと思った。「USB-Cで充電できます!」とかアナウンサーが言ってて、新しいギャグかな、と。でも、数年後...
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#412 値上げの向こう側

「また値上げかよ……」スーパーのカゴに商品を入れるたび、俺の溜息は深くなる。仕事帰り、夜7時過ぎ。自動ドアが「ピンポーン」と鳴ると、これから見るであろう値札を想像し、もうそれだけで気が重い。スーツ姿のままカゴを手に取り、いつものルートを歩く...
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#406 ホラー道場深夜の稽古

真夜中の二時。布団の中で動画を眺めていた俺の前に、唐突にそれは現れた。白い服、長い黒髪。いかにも幽霊という見た目だ。だが、問題は「演技」だった。「う、うら……め……しやぁ……」語尾が上ずり、間の取り方も悪い。足はしっかり床についており、ただ...
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#405 福龍軒の秘密

福龍軒は、駅から少し外れた路地裏にある。古びた赤い看板、かすれた漢字、灯りの弱い裸電球。初めての人には少し不気味に映るかもしれないが、地元では「隠れた名店」として評判だ。辺鄙な場所なのに客足が途絶えることがない。店主の張さんは寡黙な人物で、...
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#401 秘密戦隊父と母

押入れの掃除なんて、正直気が進まなかった。古い布団やら黄ばんだ雑誌やら、どうせガラクタばかりで大変なのは目に見えていた。ただ、捨てられない大量のマンガ本をしまう場所がほしいと言ったら、押入れを片付けたら、空いたスペースを使っていいと言われた...
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#400 罰ゲームで魔法少女になるオッサン

商店街の組合の飲み会で軽率なことを言ったのが、そもそもの間違いだった。「おしっ、負けたやつ、コスプレして販促な!」「いいですねっ! 商店街の売上もアップするかもです!」冗談で言ったはずのその言葉に若手連中もノリノリだ。そして始まる謎の賭け麻...
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#393 ストリート茶会! 粋がいきすぎる壮絶バトル

その夜、路地裏に円陣ができた。ラップバトルのサイファーよろしく、だがそこに並ぶのはマイクでもターンテーブルでもない。ゴザ、水指、そして風炉――茶道で夏に使われる炉である。ストリート茶会は唐突に始まる。掛け声ひとつなく、最初に一歩踏み出したの...
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#392 都市伝説を考える会

先週の金曜、友人に妙な会合に連れて行かれた。名前は「都市伝説を考える会」。聞いただけで胡散臭いだろう?薄暗い喫茶店の二階に十人ほど集まっていて、皆が輪になって話していた。年齢も職業もバラバラ。スーツ姿の中年、フリーター風の若者、妙に落ち着い...
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#386 変な新聞記事

何年か前のことだが、地方紙に載った小さな記事が、妙に記憶に残っているんだ。――以下、記事のスクラップブックから抜粋する。近隣住民同士の口論、原因は「プリン」をめぐる主張の相違八月十八日午前八時ごろ、市内在住のパート従業員Aさん(42)とパー...