変な話

ちいさな物語

#053 ご機嫌メーター

「今日の機嫌、72点」 朝、目覚めてすぐに手首に巻いたデバイスで測る。その数値はアプリに自動で登録され公開される。それが今の社会の常識だった。 「お、今日は悪くないな」 数年前に開発された「ご機嫌メーター」。血圧計のように簡単にその日の機嫌...
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#052 トイレットペーパーの妖精

深夜、ふと目が覚めた。喉が渇いたわけでもない。トイレに行きたいわけでもない。でも、何かの気配がする。布団からそっと抜け出し、廊下に出る。暗闇の中、トイレの扉の隙間から、ぼんやりとした光が漏れていた。誰かいる……?恐る恐るドアを開けた。そこに...
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#040 透明人間の帽子

日曜の午後、近所の公園を歩いていると、ふと目に入った木の枝に帽子が引っかかっていた。赤と黒のツートンカラーで、妙に惹かれるデザイン。「誰かの落とし物か?」と、軽い気持ちで帽子を取ってかぶってみた。すると、突然腕が消えた。いや、触ると腕はちゃ...
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#037 焼けないケーキ

俺の名前は翔太。普通の会社員だったが、ある日思いつきでYouTubeを始めた。「素人がケーキを焼く」という企画だ。料理経験ゼロの俺が悪戦苦闘する様子がウケるんじゃないか、と思ったわけだ。最初の動画は、予想以上にひどかった。卵を割ろうとしたら...
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#035 大統領たちの戦場

人類はようやく「戦争」という概念を進化させた。それは命を奪う血なまぐさい戦場ではなく、世界中のゲーマーが戦場となる仮想空間で戦う「デジタルウォー」だった。勝敗によって国同士の領土や資源が動く仕組みで、リアルの犠牲者はゼロ。だが、それが平和と...
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#033 実況! お弁当戦線

午前の授業の終わりを知らせるチャイムが鳴ると、俺はすかさずカバンの中の弁当箱を取り出した。「さあ、ついにランチタイムのゴングが鳴りました!」心の中で歓喜の声をあげる。俺はひとり興奮しながら机の上に弁当を広げた。今日は母が作ってくれた手作り弁...
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#026 中山道の旅

「おい、そこの若者!」と呼び止められたのは、中山道の宿場を抜けて少しした頃だった。振り向くと、一人の侍風の男が立っていた。いや、侍風というのも妙な表現だが、何せその格好が奇妙だったのだ。立派な刀を腰に差しているものの、着物は古びて裾がほつれ...
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#023 瞳をとじて

昨夜は気の置けない友人たちと宅飲み鍋パーティだった。しかし気がつけばソファで寝ていて、僕の顔には見事なまでの「芸術」が施されている。左頬にはへのへのもへじの何やら卑猥なマーク。右頬には萌え絵風の女の子。おでこには「休暇中」と大きく書かれてい...
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#012 パワハラ課長とカブトムシ

最近、うちの課の空気は最悪だ。パワハラが絶えない課長のせいで、社員のやる気は地に落ちている。変なセミナーで感化されて、全員変な体操をさせられたり、A4サイズのコピー用紙いっぱいになるまで社訓を繰り返し書かせたり、査定をチラつかせてやりたい放...
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#004 密林研修

会社の研修で訪れたアマゾンの密林。研修担当者は笑顔で言った。「これから君たちには、自己成長のためのサバイバルを体験してもらう!」社員たちは軽いアウトドア体験だと思い込んでいた。だが、案内されたキャンプ地には食糧も水もなく、社用のノートパソコ...