ちいさな物語 #184 あの人の話 「なあ、覚えてるか? ほら、あの人。あの喫茶店にいた、なんてことないけど、不思議と気になる感じの人」そう言うと、この町の年の近いやつは、大抵みんな、少し笑ってうなずく。名前を出さなくても通じるんだ。あの人は、そういう人だった。初めて会ったの... 2025.04.18 ちいさな物語恋愛
ちいさな物語 #183 山のちからくらべ これはの、はるか昔の話じゃ。今じゃもう、誰も知らんような時代、山にも気持ちっちゅうもんがあったんじゃよ。いや、今もあるが、人間の方に感じる力がのうなったんじゃ。あるところに、二つの山が向かい合っておった。ひとつは背の高いおおたけ山(おおたけ... 2025.04.17 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #182 千年の庭 この国では、生まれた家の庭にどんな木が生えているかで、人の力が決まる。紅葉の家系は火を扱い、柊の家系は霊を祓う。だがその力は、木の状態によって左右されるため、庭木の世話は代々の重要な務めだった。ユウトの家の庭には、樹齢千年を超えるかしの巨木... 2025.04.17 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #181 モンスター退治の経費計算 それは、黄金月の12日だったかのう。王都を騒がせていた大空の火竜・バルバルガを、ついに倒したってニュースが広まったんじゃ。倒したのは、五人組の冒険者パーティ「煌滅旅団ルミネグラ」—— 剣士に魔法使い、僧侶に盗賊、あと何を間違ったのか、会計士... 2025.04.16 ちいさな物語異世界の話
ちいさな物語 #180 大きな町と小さなドア その町には、「小さすぎるドア」があった。壁のように広がる白い建物の中央に、子どもでも肩をすぼめなければ通れないほどの、異様に狭い扉。誰もその先を見たことがない。なぜなら、その町に暮らす人々は、みなとても大きかったからだ。大きい——それは体格... 2025.04.16 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #179 生贄募集、時給1500円〜(交通費支給) 「生贄バイト、急募。時給1500円〜。未経験歓迎」そんな求人広告を見たタケル(28・フリーター)は思った。「なんか宗教系っぽいけど、時給いいし、とりあえず応募しとくか」面接会場は宗教法人なんたらと書かれた怪しげな事務所。面接官は無言で壺を磨... 2025.04.15 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #178 君を観測するまで、君は存在しなかった ぼくは、毎朝同じ夢を見る。灰色の霧が立ちこめる部屋。窓の外にはなにもない。ただ、光のようなものが、ぼんやりとそこにあるだけ。その部屋の中央に、彼女は座っている。黒髪の、透き通るような肌の、憂いを含んだ目をした少女。名前も、年齢も、なにもわか... 2025.04.15 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #177 納豆の糸 納豆が好きだ。昔から毎朝、白いご飯にかけて食べるのが習慣だ。混ぜる回数はきっちり三十回と決めていて、醤油は少なめ、ネギはたっぷり。今日も同じように朝食を楽しむはずだった。その日、納豆の糸が妙に丈夫だった。器から口へ運ぶ途中で切れることなく、... 2025.04.14 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #176 竜宮城の王子様 ねえ、信じてくれる?水族館で家族とはぐれて迷子になっただけなのに、わたし、竜宮城に行ったんだよ。うまく説明できるかわからないけど、あの日のこと、話してみるね。それは、家族で出かけた大きな水族館でのことだった。夏休みの中頃、すごく蒸し暑い日で... 2025.04.14 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #175 わかりやすいご利益のある神社 その神社は、いわゆる人ぞ知る存在だった。山の中腹、朽ちかけた鳥居をくぐり、急な石段を上った先に、ぽつんとある。観光案内所の地図にも載っていないし、グーグルマップでも「神社」としか出ない。神社マニアの僕だから存在に気づいたようなものだ。だが、... 2025.04.13 ちいさな物語不思議な話