ちいさな物語

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#378 走馬灯の編集はじめました

正直に言うと、自分が死ぬのがあんなにあっけないとは思わなかった。朝、餅を食べながらスマホで面白動画を見ていて、思いっきり笑った瞬間、餅が喉に詰まってそのまま──という間抜けな最期だった。さすが日本で最も人を殺している食べ物だ。まだそこそこ若...
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#377 霧の街のリィド

霧の街〈リュミエール〉は、今日も灰色に沈んでいた。低く垂れ込めた雲の下、石畳は夜明け前の雨を吸い込み、鈍く光っている。人々は足早に通りを行き交い、影のように家々へ消えていった。そんな中、一人だけ異彩を放つ姿があった。銀色の髪を短く刈り、深い...
ちいさな物語

#376 夏空を渡るクジラ

今年の夏は、どうにも蒸し暑くて、毎日が退屈だった。セミの声ばかりが響く昼下がり、僕は屋上で空を眺めていた。団地の屋上は子供たちの秘密基地だったけれど、このごろは飽きてしまったのか誰も来ない。僕は寝転がって雲を見ていた。白い雲の切れ間に、ぽっ...
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#375 四人目のわたし

夏休みの終わり、私たち小学生四人は、友達の家に集まってお泊まり会をしていた。部屋の床に敷かれたふかふかのクッション、コンビニで買ったお菓子、ポテトチップスの袋、ジュースのペットボトルが散らばる。夏休みだからこそ許される贅沢。いつもなら恋バナ...
ちいさな物語

#374 花火大会の奇談

もしよかったら、ちょっとだけ私の話を聞いてくれませんか。あの夜、今でも夢か現実か分からないくらい、不思議で忘れられない出来事だったんです。もう何年も前の夏、私は2歳になったばかりの息子を連れて、市の花火大会へ出かけました。夫は数年前に事故で...
イヤな話

#373 沈黙のランチ

昼休みのチャイムが鳴ると、私はパソコンを閉じる。ミユキがこちらに歩いてくるのが視界の端に見えた。予想通り、「ランチ行こ」の声。断ろうと思えば断れたのだろう。でもそれも面倒くさかった。ミユキは部署のムードメーカーだとみんな言う。人当たりがいい...
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#372 異国のコイン

朝の通勤途中、電車の座席に腰を下ろしたとき、何気なくズボンのポケットに手を突っ込んだ。指先に触れたのは、冷たく硬い金属の感触だった。取り出してみると、それは見たこともないコインだった。大きさは百円玉ほどだが、妙にずっしりしている。片面には王...
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#371 親切の記憶

すべては仕事帰りの夜だった。今日は妙に体が重かった。コンビニでビールでも買って帰ろうか――そう考えながら、駅から家までの道を歩く。湿った夜風が頬にまとわりつき、足取りは自然と遅くなっていた。そのとき、通りの向こうで何かが動いた。薄暗い街灯の...
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#370 台所にいるもの

ちょっと……なんというか、地味な話なんだけど、それでもいいかな。あれは、去年の夏の終わりだったと思う。夜中に喉が渇いて、私は水を飲みに台所へ降りた。家の中は蒸し暑く、外の虫の声が障子越しに響いていた。台所の電気はつけなかった。月明かりが窓か...
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#369 影喰いの剣

「何か用か? そっちで寝てろよ」レオが焚き火のそばで寝転がりながら、面倒くさそうにぼやいた。俺は苦笑して、その隣に腰を下ろす。「悪いか? お前の相棒の俺がいないと寂しいだろう?」いつものやり取りだ。俺たちが初めて出会ったのは、もう何年も前の...