ちいさな物語 #216 あの角を曲がると、自販機がある その自販機は、決まって夜中の二時過ぎにしか現れない。駅から少し離れた住宅街の裏路地。昼間に歩いても、そこに自販機などない。ただのブロック塀と、ゴミ集積所と、草の伸びた空き地があるだけだ。だが、ある夜、私は残業帰りにその道を通った。ふと、曲が... 2025.05.04 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #215 額の刃 この町の人々は、めったに怒らない。満員電車で押されても、店員に無視されても、上司に理不尽なことを言われても、口元をひきつらせて、じっと堪える。なぜなら、「キレる」と、額が割れるのだ。バカな話のように聞こえるが、実際にそうなる。ひび割れた額の... 2025.05.03 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #214 見える 「ねえ、私、幽霊が見えるんだよ」そう言ったのは、友達の茉莉だった。放課後の教室。西日が斜めに差し込み、机の影が長く床を這っていた。私は茉莉のその言葉に、何も言わずに頷いた。肯定でも、否定でもない、ただの曖昧な反応。「廊下の突き当たり、非常階... 2025.05.03 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #213 神さまの座布団 これはの、わしのばあちゃんが、そのまたばあちゃんから聞いたという話じゃ。昔々、山のふもとに「木長こなが村」っちゅう、小さな村があったんじゃ。田んぼと畑と、ちょっとした神さまがおるだけの、静かなところじゃった。この村ではな、毎年秋になると「神... 2025.05.02 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #212 四つ足 その道は、職場からアパートへの帰り道にある。駅前の明るい通りを抜け、スーパーの裏手を通り、古びた橋を渡って、神社のわきの細道へ入る。そこからが、例の“暗い道”だ。街灯はある。だが、間隔が空きすぎていて、道の途中からは、闇が勝っている。その闇... 2025.05.02 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #211 名探偵の探しもの 探偵・御堂零士みどうれいじと初めて会ったのは、僕が働くカフェ「雨宿り」でのことだった。その日も静かな午後だった。雨が降り出したので、僕は表の看板を引っ込めようとしていた。そこに、濡れたトレンチコートを着た男がふらりと現れた。「温かい紅茶を」... 2025.05.01 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #210 究極の鼻ティッシュ選手権 ある朝、僕は唐突に鼻血を出した。それは突然で、理由もなく鼻の奥から温かい感触が流れ落ちてきたのだ。慌てて洗面所に駆け込み、急いでティッシュを取って鼻に詰め込む。鏡を見てみると、鼻から白いティッシュの塊が不格好に飛び出している。まったく美しく... 2025.05.01 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #209 殺人犯の声 その能力に気づいたのは、駅のホームだった。残暑の厳しい日差しの中、僕は自動販売機でコカ・コーラのペットボトルを買った。シュッと開けた蓋の音と共に、炭酸が弾ける音が心地よく耳に響いた。「……電車遅いな、また遅刻しちゃうよ」誰かが呟く声が聞こえ... 2025.04.30 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #208 約束の庭 午後三時、町外れの公園は、夏の匂いに包まれていた。僕は汗ばむ手のひらでサッカーボールを拾い上げ、適当に芝生に向かって蹴り戻した――つもりだった。乾いた音とともに、ボールは明後日の方向に飛んでゆく。「取ってこいよ!」友達が冗談まじりに叫ぶ。「... 2025.04.30 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #207 夢で見た城 最初にその城を見たのは、三夜前の夢の中だった。高い塔、深い堀、月明かりに照らされる石造りの回廊。人影はどこにもなく、静寂だけが城の隅々にまで満ちていた。目が覚めると、城のことが妙にはっきりと記憶に残っていた。夢にしては現実的すぎた。石の冷た... 2025.04.29 ちいさな物語不思議な話