ちいさな物語

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#074 神さまの憂鬱

町はずれの小さな神社に、野良猫がよく集まる場所があった。僕は昔からその猫たちを眺めるのが好きで、暇があればよく通っていた。今日も境内の石段に腰を下ろし、猫たちが気ままに歩き回るのを眺めていた。毛づくろいをする者、昼寝をする者、鳥を狙ってじっ...
SF

#073 鋼の神と電子の記憶

むかしむかし——いや、そう遠くない未来のちょっと先の話だ。その街には、かつて「鋼の神」と呼ばれるものがいた。神といっても、伝説の神々のように天上から奇跡を降らせるわけではない。それは巨大な機械仕掛けの存在であり、この都市を守護するために作ら...
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#072_頭の上に

最初に気づいたのは、コンビニの店員の態度だった。「お弁当、温めますか?」俺の顔を見て普通に聞いてきたのに、次の瞬間、スッと視線が上に動く。そして、何事もなかったようにまた俺の目を見て微笑む。ほんの一瞬のことだ。そんなことはその直後に忘れて二...
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#071 見たことがある

「もう逃げ場はないぞ!」暗闇にそびえる崖の上、刑事・田村は拳銃を構えて叫んだ。その先に立つのは、指名手配中の銀行強盗犯・柴田。汗だくの顔を歪ませ、肩で息をしながら後ずさる。しかし、もう後ろは崖。ここからの逃亡は不可能だ。「くっ……」柴田は崖...
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#070 焚火の夜の奇妙な話

旅の途中、俺は森の奥の開けた場所で焚火の光を見つけた。火を囲むのは四人の旅人。見た感じ知り合い同士というよりはたまたま居合わせただけのようだった。こういう場所では野営に適した場所を取り合うか、何かの縁と割り切るかのどちらかだ。しかしこんな森...
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#069 不可解な裁判

気がつくと、俺は法廷に立っていた。傍聴席には、黒ずくめの人々が並び、静かにこちらを見ている。検察官は痩せた男で、深い皺の刻まれた顔をしていた。判事はというと、裁判官席で何やら書類を眺めている。ここからは何が書いてあるのか見えないが、膨大な量...
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#068 鈴の音の山

おやおや、旅の方。そんなところで立ち止まって、どうしたんだい? ん? 鈴の音? 山道を歩いていたら、鈴の音が聞こえて追いかけきた? そりゃ、変な話だねぇ。ああ、もしかして……じゃあ、ちょっと歩きがてら、ここらの話をしてやろうか。このあたりに...
SF

#067 シカですか?

「では、これが未来の移動手段となる『シカライド』です!」壇上で発表されたのは、最新型の電気自動車……ではなく、一頭の立派な鹿だった。静まり返る会場。聴衆は何かの冗談かと思い、ざわつき始める。しかしプレゼンターの科学者は至って真剣な表情だ。「...
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#066 肉の正体

「この肉……どこ産なんだ?」ステーキナイフを持ちながら、俺はシェフに尋ねた。「珍しいですよ」シェフはにやりと笑う。「地球では、なかなか食べられませんから」地球?噛み締めた瞬間、ジューシーな肉汁が口の中に広がる。豊潤な香り、深みのある味わい。...
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#065 ワカメカタストロフ

ワカメって、こんなに増えるものだったか?俺は台所のシンクを見下ろし、唖然としていた。スーパーで買った乾燥ワカメをちょっと戻すつもりだったのに、気づけばシンクが緑の海になっている。水を吸ったワカメが、どんどん膨らみ、シンクからあふれ出し、床に...