ちいさな物語 #244 その箱は開けないで その朝、家の前に小さな箱が置かれていた。黒いガムテープで封がされ、伝票らしきものは何も貼られていない。手書きの文字で、ただ一言だけが書かれた白い紙が貼られている。「開けないでください」差出人も、宛名も、何もない。だがその文字は、まるで自分に... 2025.05.18 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #243 小石のバトン それはただの、小石だった。歩道に落ちた、丸く削られた白い小石。加工されたものであることは一目瞭然。どこかの敷地に敷き詰められていたものを、子どもが拾って遊んでいたのだろう。通行人が意図せずそれを蹴飛ばし、転がった先は、都内の静かな住宅街の交... 2025.05.17 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #242 冷蔵庫の狂気 引っ越し先のアパートには、備え付けの冷蔵庫があった。真っ白な本体は古びていて、冷蔵庫というより巨大な棺桶に見えなくもない。前の住人が置いていったものらしく、家主も「処分していい」と言っていたが、昨今家電を捨てるのにも金がかかる。どうせ必要な... 2025.05.17 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #241 空蝕 最初にそれが起きたのは、静岡県の浜松市だった。ある晴れた午後、駅前のロータリーで、ひとりの若者がふいに「消えた」。監視カメラの映像には、奇妙な瞬間が記録されていた。若者が歩いていた位置――空間が、まるで破れたように歪み、空間の“色”が変わっ... 2025.05.16 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #240 夢の原液を売る店 「ねえ、あれ見た?」そんな噂からすべては始まった。通学路の途中、古ぼけたレンガ塀の裏に、いつのまにか現れていた露店。店というには奇妙で、店員らしき人物もいない。ただ、古い木の台が置かれ、その上に小瓶が並んでいるだけ。野菜の無人販売所といった... 2025.05.16 ちいさな物語不思議な話
ちいさな物語 #239 闇バイト始めました。 僕はバイトを探していた。スマホの求人アプリを見ても、どれもピンと来ない。そんな時、駅前の掲示板に貼られていた小さな張り紙が目に飛び込んできた。『闇バイト募集! 高収入保証! 秘密厳守!』え、闇バイト? 求人広告でそれ書いちゃってもいいの?最... 2025.05.15 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #238 我が家の蓄財アクティビティ 「家族で沖縄旅行に行こう!」父のその一言で、私たち一家の蓄財生活が始まった。最初はただ、ありふれた旅行資金作りだった。しかし、それは予想外の盛り上がりを見せ、旅行そのものよりも貯金活動の楽しさが、家族の話題の中心となった。まず最初に決めたの... 2025.05.15 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #237 終点の向こう側 最初に気づいたのは、静けさだった。ぬるい泥の底から引き上げられるように、僕は目を覚ます。がらんとした車内、蛍光灯の光はすでに落とされ、窓の外には何も見えない。うっすらとした非常灯だけが、座席の輪郭をぼんやりと照らしている。「……え?」しばら... 2025.05.14 ちいさな物語怖い話
ちいさな物語 #236 それっぽいビジネス書の謎 「今の時代、成功したいならまず“言い回し”を身につけろ」それが最初にネットでバズった“それっぽい言葉”だった。出どころは不明。けれど、どこかで見たような内容だった。自己啓発か、ビジネス書か、あるいはどこかのインフルエンサーの切り抜きか。ただ... 2025.05.14 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #235 いつもの その料理が運ばれてきたのは、ちょうど僕が水を飲もうとしたときだった。木のトレイに載ったそれは、湯気を立て、甘いようで香ばしい、なんともいえない香りを漂わせていた。ふと横を見た。隣の席の中年男性が、箸を手にしていた。ゆっくりとご飯をすくい、汁... 2025.05.13 ちいさな物語変な話