ちいさな物語

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#019 薔薇色の嘘

片田舎に佇む古びた屋敷に住むお嬢様、クラリッサは、目が見えない。彼女の目は開いているが、光も色も感じることができない。それでも、彼女の世界は鮮やかだった。執事のアルフレッドが、彼女に毎日「景色」を語ってくれるからだ。「今日は曇り空です。灰色...
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#018 手のひらの宇宙

一人暮らしが味気なくて、何となくペットショップに立ち寄った。動物を飼うつもりはなかったが、動物と暮らす自分を想像をしてみてもいいかもしれないとふと思ったのだ。そこで出会ったのは、少し変わった模様のハムスターだった。背中に広がる斑点は、まるで...
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#017 侍がいる

あれは3年前の秋の夜だった。残業帰りの深夜、駅前の自販機でコーヒーを買ってたんだ。ふと振り返ると、そこにいたのが、着流し姿の男だった。いや、普通の着流しじゃない。腰に刀を差して、髷を結った、まさに時代劇から飛び出してきたみたいな侍だ。俺は一...
SF

#016 新米時空警察の大失敗

あの日、僕は時空警察の新人で、時空観測室のモニター番を任されていました。先輩たちはみんな出動中で、僕一人だけ。そんな時に限って、異常が発生するんですよね。モニターに映ったのは、紀元前300年頃のギリシャ。大哲学者アリストテレスが街角で何やら...
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#015  真夜中のキッチンカー

深夜、静まり返った商店街の一角に、いつの間にか現れた古びたキッチンカー。白いペンキが剥げ落ち、看板には「Midnight Meals」とだけ書かれている。客など誰一人いないはずの時間に、車内のランプだけがぼんやりと灯り、窓口には髪の長い往年...
SF

#014 君への遺書に

目を覚ました時、僕の体はほとんど動かなかった。部屋の中は静まり返り、唯一の音は、いつくもの管につながれた君が隣でデータを処理する機械音だけだった。僕の希望が聞き入れられているのであれば、世界のありとあらゆるデータが今君に注がれている。「プロ...
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#013 心霊スポットでの心得

高校の頃、不良仲間と「やばい場所」を巡るのが流行ってたんだ。俺たちは度胸試しがてら、地元で有名な廃病院に行くことにした。夜中の2時、懐中電灯を片手に病院の門をよじ登って侵入した。中はカビ臭くて、壁には落書きだらけだった。どの落書きもよくある...
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#012 パワハラ課長とカブトムシ

最近、うちの課の空気は最悪だ。パワハラが絶えない課長のせいで、社員のやる気は地に落ちている。変なセミナーで感化されて、全員変な体操をさせられたり、A4サイズのコピー用紙いっぱいになるまで社訓を繰り返し書かせたり、査定をチラつかせてやりたい放...
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#011 三時間だけの同窓会

仕事帰りにふらりと酒場へ立ち寄った。小さな店だがそこそこにぎわっている。カウンターには数脚の古びたスツール、申し訳程度にテーブル席もあった。天井から吊るされたアンティーク調のランプはなかなか雰囲気があっていい。いきなり入ったことがない店に立...
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#010 狐火そば

江戸時代、深川の外れに「狐火そば」というそば屋があった。その名は、店先に夜ごと灯る不思議な青白い光に由来する。店主の弥助といっては寡黙で愛想はなかったが、打つ蕎麦は江戸一だと皆「噂で」知っていた。なぜならそれを食べた者に直接聞いたわけではな...