ちいさな物語

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#449 
懐かしい町

「懐かしい町」の話を聞いたことがあるか?地図にもSNSで検索しても出てこない。それなのに口伝で噂は広がっていて、誰かが必ず「ああ、聞いたことある」と頷く。けれど不思議なことに、詳しい情報は誰も語らないんだ。実は俺も、あの町に迷い込んだひとり...
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#448 刺身の旅

あれは、忘れもしない晩酌の夜のことだ。スーパーで買ったパックの刺身を皿に並べて、醤油を用意し、さあ一口……と箸を伸ばした瞬間、声がした。「まだだ。まだ食うな」僕は手を止めた。部屋には僕ひとり。だが声は確かに聞こえた。「ここだ、ここだよ。お前...
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#447 街灯の下の影

あれは俺が夜勤に向かうために歩いていたときのことです。街灯って、日が暮れて空が暗くなると自動で点きますよね。あの瞬間にね、妙なものを見てしまったんですよ。ある日の夕方、駅への細い道を歩いていたんです。商店街から外れた裏通りで、人通りはほとん...
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#446 セルフ化社会

あんたは最近「セルフ〇〇」ってやつをよく聞くと思わないか?セルフレジ、セルフ脱毛、QRコードでセルフ注文するカフェ……最初はその程度だった。人件費削減だの効率化だの言われて、「自分でやる方が早い」って便利がられていた。でもな、気がついたら街...
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#445 飢えの名前

あんたにも経験はあるんじゃないか?夜中にふと、ラーメンが食べたくて仕方なくなるとか、やけに甘いものを欲するとか。誰にでもあるんじゃないかと思う。これはただの気まぐれみたいなものだと思うだろう。でもな、俺の場合はちょっと違ったんだ。最初は小さ...
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#444 戻らない交渉人たち

あれは今でも夢に見る出来事です。ある日、街の雑居ビルで立て籠もり事件が起きました。銃を持った男が部屋に閉じこもり、人質を取っているという。僕は交渉人ではなく、ただの警察官でしたが、現場に動員されていました。最初に向かったのは、ベテランの交渉...
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#443 呪屋繁盛記

あんた、呪屋って知ってるかい?そう、最近はやたら耳にするだろ。アニメや漫画の影響で、若いやつらの間じゃちょっとしたブームになってんだ。実は俺、その呪屋をやってるんだよ。元々は細々とした商売でね、頼みに来るのは本当に切羽詰まった人間ばかりだっ...
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#442 異世界ニートの変わらぬ日々

あのとき確かに僕は死んだんです。過労死とかじゃなく、ただ家の階段を踏み外して頭を打った。ニュースにもならないような凡庸な死に方でした。そして気づけば光の中にいて、「あなたを異世界に転生させます」という声を聞いたんです。「よし来た!ついに僕の...
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#441 隣人たち

不思議なことが起きたのは、僕がこのアパートに引っ越してきてからすぐのことでした。隣の部屋の住人が、毎日違う人になっているんです。初日は若いサラリーマン風の男でした。挨拶を交わしたときは感じのいい人で、「こちらこそよろしくお願いします」と笑っ...
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#440 隕石パニック24時

「緊急ニュースです。大きな隕石が地球に衝突します」その一言で世界はひっくり返った。いや、ひっくり返るどころか、激しく転がり始めた。残り時間は24時間。こんなことある? こういうのはもっと前にわかるもんじゃないの?人類最後の一日は、完全にカオ...