ちいさな物語

#439 不思議なカプセル

最初にそのガチャガチャを見つけたのは、廃れたショッピングモールの一角だった。他の店はとっくに閉まり、テナント募集の張り紙が並ぶ中、ぽつんと置かれた一台の機械。赤と青の色はすっかり褪せて、透明のケースも黄ばんでいた。暇つぶしに百円玉を入れてハ...
ちいさな物語

#438 神様のお気に入り

それはある日の朝のことでした。目を覚ますと、枕元に白い封筒が置かれていたんです。僕は一人暮らしで、鍵もかけている。誰かが忍び込んだ気配もない。気味が悪く思いながら開けてみると、こう書かれていました。――おめでとうございます。あなたは「神様の...
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#437 耳の奥の声

あれは数年前のことです。通勤途中、いつものように電車で音楽を聴こうとイヤホンを耳に差し込んだ瞬間、不思議な声がしたんです。「……聞こえるか?」僕は思わずイヤホンを外しました。周囲を見渡しても、誰も僕に話しかけていない。車内は新聞を読む人やス...
ちいさな物語

#436 不思議な旅の教訓

ひとつの不思議な旅の話を聞かせましょう。あるところに三人の冒険者がいました。けれども彼らは出会ったことがない。互いの顔も名も知らず、それどころか存在すら知りません。一番目の冒険者は、若い剣士でした。彼は古い文献に記された「封印の遺跡」を目指...
ちいさな物語

#435 おじさんの中のおじさんたち

あれは本当に妙な夜だったんです。駅前のベンチに腰かけていると、不意に隣におじさんが座ったんですよ。よれよれのスーツ、手に持った紙袋からはパンの匂い。まあ普通のおじさんだと思いました。ところが次の瞬間、そのおじさんの胸元がパカッと開いて、中か...
ちいさな物語

#434 川の大橋ものがたり

むかしむかし、とある里に大きな川が流れておった。その川は流れも早く、雨が降ればすぐに氾濫して、里の人々はたびたび困らされていた。とりわけ川を渡るのが大変でな、舟を使えば流され、泳げば命を落とす。里と里とをつなぐ道はその川でぷつりと途切れてお...
ちいさな物語

#433 唐突にレフェリー&実況

最初にその「連中」を見たのは、駅前のロータリーでした。タクシーの順番を巡って、酔っ払いの中年とサラリーマンが口論していた。どこにでもあるような揉め事です。どっちが先に並んでいたとか、嘘だとか。声を荒らげ、互いに指を突きつけていたその瞬間、聞...
SF

#432 みらいさま

むかしむかし、ある山あいの村に奇妙なものが落ちてきたそうな。夜の空が昼のように明るくなり、どーんと火の玉がすっと降りてきて、畑の真ん中に黒い箱を残したのじゃ。村人たちは驚いて集まり、その箱を囲んだ。「これはなんじゃ」「火薬か、それとも鬼の道...
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#431 未来を変えた枝豆

あの日、僕が居酒屋で枝豆をつまんでいただけで、あんなことになるとは思わなかったんです。昼間からビールの泡をすすりながらまったり。何気なく枝豆を押し出した瞬間、豆がつるりと飛び出したんですよ。それがぴゅんと隣の席へ飛んでいって、見知らぬサラリ...
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#430 銀杏並木の迷路

仕事帰り、ふと遠回りしたくなった。駅までの道を逸れて、人気の少ない路地に足を踏み入れた。その先に銀杏並木が広がっている。それは、どこかの有名な観光地みたいに見事な並木道。けれど、人も車もない。まるで世界から切り離されているような静けさだった...