昔々、あるところに、ひとりの旅人がおったんじゃよ。
その旅人はな、自分の蓄えさえ乏しいのに、困っている人を見ると放っておけない。それはそれは心のやさしい男だったんじゃ。
ある時、男は険しい山道を越えて、遠くの町へと向かっておった。
山の中は風が冷たく、道も険しくて、旅人にはつらい道のりだったんじゃが、懸命に道を進んだ。
すると、道端に一人の僧侶が座り込んでおった。
その僧侶は、着ている衣もボロボロで、泥にまみれておって、とても貧しい身なりをしておったんじゃよ。誰もが鼻をつまんで通り過ぎるだろうというくらい汚い僧だった。
旅人はそれを見て、「もしもし、何かお困りですか」と声をかけた。
僧侶は力なく頷くだけで、何も言わなかったんじゃ。
気の毒に思った旅人は、自分の持っていたわずかな食べ物を僧侶に分け与え、祈りの言葉を口にしてから、また歩き出したんじゃよ。
次の日、山道を歩いていると、また別の僧侶に出会った。
その僧侶も、昨日の僧侶と同じように、ひどく汚れた身なりをしておったんじゃ。
旅人はまた大切に持っていた食べ物を差し出したんじゃ。
自分の分がなくなってしまうけれど、1日歩けば町に着く。水さえ飲めれば死ぬことはないだろう。
旅人の心は不思議と穏やかだったんじゃよ。僧侶に施しをするというのは、何事もなく旅をさせてくださる神様へのお礼につながる。旅人はそう考えていた。
さらにその次の日、また別の僧侶が道に座っておった。
けれど、もう旅人の手元には、差し上げられるような食べ物が残っていなかったんじゃ。
旅人は困り果てて、「今は何も食べるものを持っておらず……申し訳ありません」と祈りの仕草をして頭を下げた。
そして、せめてこの方の旅が無事でありますようにと、心を込めて祈りを捧げたんじゃ。
ようやく山を降りて町に着いた旅人は、酒場で山での出来事を話してみたんじゃよ。
「山の中に、とても困っている僧侶様が何人もおいででした」とな。
すると、町の人たちはドッと大きな声をあげて笑い出したんじゃ。
「おいおい、この辺りに教会なんてひとつもありゃしないぞ」
「僧侶のふりをした山賊にでも恵んだのだろう」
「おまえさんは、ずいぶんお人よしだなあ」
そう言われて、旅人はひどく驚いたんじゃが、怒ることはしなかった。
「そうでしたか。でも、あの方たちが少しでも楽になられたのなら、それで良いのです」
旅人はそう言って微笑んだ。
もはや一文無しだったので、酒場の軒先を借りて体を休めることにしたんじゃ。
次の日、旅人が町を出て再び歩き出すと、また別の汚い身なりの僧侶に出会った。
旅人は不思議に思って、その僧侶に聞いてみたんじゃ。
「この辺りには教会はないと聞きましたが、どちらから旅をしてこられたのですか」とな。
僧侶は何も答えず、ただにこにことやさしく笑うだけだったんじゃよ。
旅人は、町で手持ちの道具を売って得た、わずかばかりのお金をその僧侶に差し出したんじゃ。
すると、僧侶は初めて口を開いて、こう尋ねたんじゃ。
「何人いた?」
旅人がきょとんとしておると、僧侶はもう一度、「僧は何人いた?」と尋ねた。
旅人が「あなた様で4人目です」と答えると、僧侶は満足そうに頷いて、風のように立ち去ってしまったんじゃよ。
旅人が不思議な気持ちでさらに進むと、翌日、また別の僧侶が現れたんじゃ。
旅人は、なけなしの金をすべてその僧侶に差し出した。
すると、5人目の僧侶は「こちらにいらっしゃい」とやさしく手招きをしたんじゃよ。
旅人がついていくと、僧侶はある場所を指差した。
そこを少し掘ってみると、なんと地面の中から金がたっぷりと詰まった袋がいくつもいくつも出てきたんじゃ。
驚いた旅人が顔を上げると、もうそこには僧侶の姿はどこにもなかった。
お前さんも知っている通り、この国にはな、古くから神様に仕える5人の天使がおられるという言い伝えがある。
あの5人の僧侶たちは、実は人間に姿を変えた天使様だったんじゃな。
本当の慈悲の心を持った者を見極めるために、あえて汚い身なりで現れたんじゃ。
旅人は、その金を使って教会を建て、困っている人たちを助け続けたんじゃ。
彼に助けられた人々は、彼を慕ってその手伝いをしたがるもんじゃから、彼の周りにはたくさんの人が集まり、いつもにぎやかだったそうな。
やさしい心というのは、いつか必ず自分のもとに返ってくるものなんじゃねぇ。
おや、気づいたかい?
そう、それがこの町の成り立ちじゃよ。町の中心にあるあの教会――そして旅人の手伝いをするために集まったのがわしらのご先祖様じゃ。
お前さんも、困っている人がいたら、やさしくしてあげるんだよ。神様と天使様はいつも見ていてくださるからね。
お話はこれでおしまい。さあ、もう寝る時間じゃよ、おやすみ。


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