不思議な話

ちいさな物語

#487 絵本の扉をくぐる子どもたち

放課後の図書館は、いつも少し埃っぽい匂いがした。窓から差しこむ夕陽が、木の床をオレンジ色に染める。その日、四人の子どもたちは誰も開けたことのない本棚の前に立っていた。鍵のかかった扉が、なぜか少し開いていたのだ。「ねえ、これ、ずっと閉まってた...
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#483 開かずの扉、開けます

俺の仕事は、開かずの扉を開けること。簡単に言えば、開けちゃいけない扉を開ける専門家。依頼があれば、どんな場所でも行く(出張費はいただきます)。仕事の分類上は鍵師だ。しかし鍵のかかった扉なら本物の鍵師がやる。俺の仕事はその後、鍵以外の超常的な...
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#481 霜柱の神さま

冬の朝ってさ、空気が張り詰めてるだろ。息をするだけで、胸の奥まで冷えるようなあの感じ。俺は昔から冬の朝が好きだった。特に、霜柱を踏む音。しゃり、しゃりって音がたまらない。子どものころからそうだった。学校へ行く道すがら、道端の霜を見つけては、...
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#479 記憶配達人

俺の仕事は配達人だ。……と言っても、新聞配達や宅配便とは違う。俺が届けるのは、「記憶」。人の記憶と世界のあいだに生じた矛盾を埋めるため、存在しなかった出来事を、あたかも「あったこと」のように届ける。そうすることで、世界は平穏を保つ。世界は、...
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#477 雨の日だけ来る友だち

雨が降ると、彼はやってくる。そのことに最初に気づいたのは、私が9歳くらいの頃だった。梅雨時の薄暗い放課後、家でひとり退屈していると、玄関の呼び鈴が鳴った。覗き窓から見ると、見知らぬ少年が立っていた。青白い肌に黒い雨合羽を着て、髪からは水滴が...
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#474 トンネルの中

その子に出会ったのは、本当に偶然だった。あの日、僕は出張帰りで、地方のローカル線の無人駅に降りた。帰りのバスまで時間があって、少し散歩でもしようと駅前の坂道を登っていたときだ。人通りなんてまったくない。途中の古びた案内板には、「隣町へ通じる...
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#469 私は神様

最初にその地図を描いたのは、退屈な授業中だった。私はノートの端に自分だけの地図を描いて遊んでいた。丸い半島、曲がりくねった川、中央に大きな山脈。なんとなく名前もつけた。「レムリア大陸」。それはその時間だけの遊びのはずだった。でも、次の日、ノ...
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#464 神様の同居人

ある日、道端でボロボロの男を拾った。彼は「神だ」と名乗った。最初は信じなかったが、彼が見せた小さな奇跡を見てしまった。その日から、俺の家に神様が住みついた。やがて、彼はこの世界に再び“祈り”を取り戻していく。(文字数:)「#464 神様の同...
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#462 宇宙人たちの侵略会議

あれは、数年前のことだ。正直、信じてもらえるとは思っていない。けれど、僕はあの日、本当に「宇宙人の侵略会議」を聞いてしまったんだ。その晩、僕は会社の帰り道、公園のベンチに腰を下ろしてコンビニで買ったコーラを飲んでいた。一人でこうやってくつろ...
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#460 無人島の光るラーメン

船が嵐に呑まれたのは、確か夜明け前のことだった。暗闇の中、船体が裂けるような音を立て、僕は波に放り出された。気がつけば無人島の浜辺に打ち上げられていた。傷だらけの体と、骨の髄まで染み込んだ疲労。多くはないサバイバル知識で数日はなんとか少ない...