不思議な話

ちいさな物語

#577 意識高い系ねこの哲学

雨の降る土曜日だった。路地裏の段ボール箱にいたのは、震える子猫……ではなく、どこか遠い未来を見据えているかのような眼差しをした一匹のサバトラ猫だった。「ニャア(お前、リソースに余裕はありそうだな。アライアンスを組まないか?)」猫の鳴き声と二...
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#576 雨を飼う

そのペットショップは、路地裏に隠れるように存在していた。看板には「気象標本・動植物取扱店」と掠れた文字で書かれている。気象標本とはなんだろう……私は興味本位で店内に足を踏み入れた。気象標本の例として店主の老婆から手渡されたのは、青白く光る小...
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#572 銀のティースプーン

市の外れにひっそりと佇むその洋館は、明治時代に建てられた実業家の別邸だったという。現在は市の資料館として公開されているが、訪れる人はまばらだ。赤レンガの壁には蔦が絡まり、窓ガラスは当時の手吹きガラス特有の歪みを湛えている。私と友人の結衣は、...
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#568 失せ物国境検問所

その銀のボタンは、単に糸が解けて転がっていったわけではなかった。糸は不思議としっかり縫い付けてある。ボタンだけが忽然と姿を消していた。コートの顔ともいえる襟元に輝いていた、あのボタンがなくては意味がない。私はその日、部屋のすべての家具を動か...
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#566 叶えるお守り

駅から坂を十分ほど上ると、杉木立に囲まれた小さな神社が現れた。鳥居の横の掲示板には、地元の祭りの案内と「清らかな心」という墨書が貼られている。いかにも地域に密着した小さな神社という感じだ。僕の聞いた噂は本当なのだろうか。鳥居をくぐって進むと...
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#556 骨董品屋の返品帳

うちの骨董品屋には、返品帳という帳簿がある。売上帳の横に並べて置いてあるが、客に見せられるようなものではない。理由は単純で、あまりにみっともないからだ。骨董品屋をやっていると、どうしても一定数、戻ってくる品がある。割れたわけでも、欠けたわけ...
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#555 ヴィンテージ

ねえ、君は「物に魂が宿る」なんて話、信じるかな?付喪神なんて言葉もあるけれど、あんなおどろおどろしいものじゃない。もっとずっと、静かで、温かくて、それでいて少しだけ切ない……そんな不思議な出来事に、僕は出会ってしまったんだ。場所は、街外れに...
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#554 使い魔たち

自分が不思議な力を持っていることに気づいたのは子供のころのことでした。ある日、遊びのつもりでふと「ついてこい」とつぶやいたら、放し飼いにされていた犬がしっぽを振って僕の後をついてきたんです。田舎でしたからね、その辺に犬がいたんですよ。まあ、...
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#548 闇の中の声

今日は少しだけ残業かなと思ったとき、地震が来た。初めはすぐ収まると思った。――が、その瞬間、ビル全体が獣のような音を立ててうねりだす。照明が一斉に消え、非常灯すら見えない。気がつくと辺りは真っ暗だった。闇は、思っていたよりも濃い。自分の手を...
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#545 電子の魔女

魔女なんて、科学技術が発展したこの現代にいるわけないだろ。仕事帰りに立ち寄ったカフェで、俺がそう言うと、彼女はスマホを触りながら小さく笑った。「魔女だって現代は電子機器を使いこなすわ」彼女は顔も上げず、スマートフォンの画面を指でなぞりながら...