不思議な話

ちいさな物語

#140 涙を拾う赤鬼の話

これはな、わしの村に昔から伝わっとる不思議なお話じゃ。その村のはずれにある山には、一匹の赤鬼が住んどった。
鬼と聞けば怖いかもしれんが、この赤鬼は心の優しい、ちいと変わった鬼じゃった。村で誰かが悲しくて涙を流しとると、赤鬼はどこからともなく...
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#135 山の神様とおむすび畑

昔々、ある山のふもとの村での話じゃ。その村は山深くての、猟師の獲物になる獣や山の恵みもあって、年中食べ物に困ることはなかった。しかし、ある年、大きな干ばつがあったそうな。畑は枯れ果て、米も野菜も取れなくなり、たのみの山の恵みもさっぱりで、村...
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#130 木蓮の歌

祖母の家の庭には、大きな木蓮の木があった。春になると白い花が咲き誇り、甘く濃厚な香りを漂わせる。その美しさもさることながら、僕にはずっと気になっていることがあった。それは——木蓮が歌うこと。咲いている時期だけ、微かな歌声が聞こえるのだ。「お...
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#128 手厚い葬儀屋

「あそこの葬儀屋、サポートが異常に厚いらしい」そんな噂を耳にしたのは、病院の帰りの居酒屋だった。退院してから、ここぞとばかりにいろんな知人に連絡をとって遊びまわっている。その知人の一人が酒を片手に話し始めた。「遺族への対応が丁寧なのはもちろ...
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#127 落ちてきた雲

朝、目を覚ました瞬間、異変に気づいた。カーテンを開けると、目の前の景色に息をのんだ。空はびっくりするほどの快晴で、そこは別にいいのだが、問題は――雲がすべて落ちてきていた。町中が、白くもこもこした塊で埋め尽くされている。電線も信号も、車も家...
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#126 桜の散る夜

昔々、と言うほどではないが、今よりずっと昔の話だ。ある村のはずれに、大きな桜の木があった。それは見事な一本桜で、春になると村中の者が見に行くほど美しかった。だが、不思議なことに、桜の散る夜にだけ、そこに娘が現れるという噂があった。その娘は、...
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#123 青い鳥

「おい、見ろよ!」友人のツヨシが興奮した声で俺を呼ぶ。指さした先にいたのは――青い鳥だった。ただの青じゃない。夜明け前の空のような深い青、青い炎のように揺らめく羽。その存在感は現実味がなく、まるで絵本の中から飛び出してきたみたいだった。「マ...
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#122 祖父のビー玉

祖父が亡くなった後、古い木箱の整理をしていると、小さな布袋が出てきた。中には、ひとつのビー玉が入っている。透明なガラスの中に、ゆらめく青と緑の渦が閉じ込められていた。なぜか惹かれてそれを手に取ってみる。そして何気なくのぞき込んだ瞬間、息をの...
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#113 満月の神渡し

昔々のとある山深い村の話だ。この村には、古くからの掟があった。「満月の夜、決して外へ出てはならぬ」子どもも大人も、この掟を守るのが当たり前だった。理由を尋ねると、年寄りたちは口を揃えて言った。「その夜は神が通る。もし鉢合わせすれば、二度と戻...
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#112 宙を泳ぐ魚

古びた食堂のカウンターに座り、俺は旬の焼き魚定食を前にした。魚の種類が季節によって変わる人気の定食だ。脂ののった焼き魚が湯気を立て、芳ばしい香りを漂わせている。箸を持ち、ふっくらしたその身をほぐそうとした、その瞬間だった。魚の体が微かに震え...