怖い話

ちいさな物語

#247 屋根裏の住人

古い一軒家に引っ越して三か月が経つ。風呂場の換気扇はうるさく、壁は薄く、キッチンの床はぎしぎしと鳴る。だが駅近で家賃も安い。築六十年の割にはお得な物件だと自分に言い聞かせていた。最初に違和感を覚えたのは、夜中の天井の向こうから聞こえる“足音...
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#244 その箱は開けないで

その朝、家の前に小さな箱が置かれていた。黒いガムテープで封がされ、伝票らしきものは何も貼られていない。手書きの文字で、ただ一言だけが書かれた白い紙が貼られている。「開けないでください」差出人も、宛名も、何もない。だがその文字は、まるで自分に...
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#241 空蝕

最初にそれが起きたのは、静岡県の浜松市だった。ある晴れた午後、駅前のロータリーで、ひとりの若者がふいに「消えた」。監視カメラの映像には、奇妙な瞬間が記録されていた。若者が歩いていた位置――空間が、まるで破れたように歪み、空間の“色”が変わっ...
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#237 終点の向こう側

最初に気づいたのは、静けさだった。ぬるい泥の底から引き上げられるように、僕は目を覚ます。がらんとした車内、蛍光灯の光はすでに落とされ、窓の外には何も見えない。うっすらとした非常灯だけが、座席の輪郭をぼんやりと照らしている。「……え?」しばら...
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#214 見える

「ねえ、私、幽霊が見えるんだよ」そう言ったのは、友達の茉莉だった。放課後の教室。西日が斜めに差し込み、机の影が長く床を這っていた。私は茉莉のその言葉に、何も言わずに頷いた。肯定でも、否定でもない、ただの曖昧な反応。「廊下の突き当たり、非常階...
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#212 四つ足

その道は、職場からアパートへの帰り道にある。駅前の明るい通りを抜け、スーパーの裏手を通り、古びた橋を渡って、神社のわきの細道へ入る。そこからが、例の“暗い道”だ。街灯はある。だが、間隔が空きすぎていて、道の途中からは、闇が勝っている。その闇...
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#203 コンビニ迷宮

深夜二時、急に甘いものが食べたくなって、近所のコンビニへ向かった。住宅街の端にある、小さな店。通い慣れた場所だった。自動ドアが、いつもの電子音を立てて開く。けれど、妙だった。店員の姿が見当たらない。深夜ならバックヤードにいるかもしれない。こ...
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#199 赤信号の理由

夜勤明け、午前3時。住宅街を抜ける細い道にある、三叉路の信号。小さな交差点なのに、なぜか夜中でもちゃんと動いている。だが、不思議なことに、そこに差しかかるといつも赤信号なのだ。誰もいない。車も通らない。なのに赤。ひたすら赤。そしてかなりの時...
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#191 呪いのラリー

最近、どうも体調が悪い。夜眠れず、食欲もない。朝起きると必ず部屋に長い髪の毛が散らばっている。自分の髪ではない。職場でそのことを話すと、後輩が冗談交じりの口調で「それ、呪われてるじゃないですか?」と言いだした。そんな非現実的なことは信じてい...
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#190 掛け軸の中から

祖父が亡くなり、古い家を整理していると一幅の掛け軸が出てきた。
墨で描かれた山水画。穏やかな山々と静かな川の流れが広がり、遠くには霞がかかっている。なかなか見事で美しい軸だった。しかし、その掛け軸を掛けて以来、夜になるとどこからか水の音が聞...