怖い話

ちいさな物語

#506 眠れない羊の夜

その話を誰にしても、みんな笑って信じちゃくれないんだ。でも俺にとっては、あれは確かに起きたことなんだよ。最初の夜は、ただ眠れなかっただけだった。蒸し暑くて、枕の中までじっとりしててな。寝返りばかり打ってるうちに、気づいたら真夜中になってた。...
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#501 街路樹の下

うちの近くの通りに、一本だけ妙な街路樹がある。並木道の中で、そこだけ異様に草が生い茂っていた。夏でも冬でも、いつもあの一角だけ、濃い緑色をしている。最初に気づいたのは、去年の秋だった。通勤の帰り道、街灯の下で足元の草がふっと動いた。風なんて...
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#495 ホワイト企業に囚われて

父の借金のかたに連れていかれたのは、雨の夜のことだった。黒いスーツの男たちが玄関を叩く。怯える私の手を強引に引き、「お嬢さん、こちらへ」と有無を言わせぬ口調で口調で言った。そのとき父は居間の隅で震えていた。「すまない……お前まで巻き込むなん...
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#494 しりとりの家

町のはずれ、杉並木の奥に古い屋敷がある。窓はどこも板で打ちつけられていて、風が吹くたび、ぎいぎいと鳴っていた。その屋敷は小学生のあいだで噂になっていた。「中の間取り、しりとりになってるんだってさ」「しりとり?」「そう。変な名前の部屋がしりと...
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#478 コピー室の斉藤

コピー室の斉藤。うちの会社で彼を知らない人間はいない。どんなに面倒な資料でも、彼に頼めば数分で完璧に仕上げてくれる。しかもミスゼロ。パンチ穴の位置、ステープラーの角度、用紙の混在――全部、彼の中に設計図でもあるかのように的確。「斉藤くん、コ...
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#476 悪魔の描かれた部屋の絵

あれは、今でもはっきり思い出せる。静かな雨の日だった。仕事帰り、駅までの近道を探して裏通りに入ったら、古い木造の建物があった。「八重画廊」と小さな看板に書かれていた。窓越しに見えた明かりに誘われて、なんとなく中へ入ったんだ。ベルの音が鳴った...
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#473 降りない人

住んでいるマンションのエレベーターで、いつも乗り合わせる人がいる。それは40代くらいの男性で、特に特徴のない普通の格好をしている。私は自分の部屋のある上の階に行くため、エレベーターを下で待っている。すると、上から降りてきたエレベーターにその...
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#472 感染した町

あれが始まったのは、去年の秋頃だったと思う。最初に気づいたのはうちの近所の商店街だった。いつも歩いているはずの通りが、ある日、一本増えていたんだ。「え? こんな路地あったっけ?」って感じで。でも、人間というのは不思議なもので、知らない道を見...
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#466 帽子の下にあるもの

最寄り駅から自宅までの道のりは、徒歩で五分。短い距離だが、最近どうしても気になることがあった。駅から自宅への道のちょうど真ん中辺り、交差点から三本目の電信柱——ちょうどその街灯の真下で必ず同じ人物とすれ違うのだ。深く帽子をかぶった黒いコート...
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#465 あぜ道にいるもの

あれは、三年前の秋だった。その日は仕事帰りで、少し遠回りをして歩いていた。空気がひんやりして、稲穂の匂いが夜風に混じっていた。最寄り駅から自宅までの田んぼの間を抜ける道を歩いていたとき、視界の端にふわりと光るものが見えたんだ。最初はこんな季...