ちいさな物語 #293 永遠のダンスホール 蛍光灯が切れかけた部屋で、明かりがチカチカと不規則に点滅していた。その青白く不安定な光は、部屋の中にいるすべての物を奇妙に歪ませて見せる。薄汚れた壁紙、古いソファー、積み重ねられた雑誌の束――どれもが陰鬱なリズムで瞬いていた。男はふと立ち上... 2025.06.19 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #290 繰り返される日常アニメからの脱出 目覚めて時計を見ると、毎朝決まって午前7時30分。 窓の外では必ず同じ小鳥がさえずり、同じ車が家の前を通る。「あれ、今日も昨日と同じだな」最初はそんなもんかと思っていた。しかし、何日経っても何も変わらない。学校に通い、同じ友達と話し、同じよ... 2025.06.18 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #287 洗面器の中の声 「うわっ、なんでお前、洗面器かぶってんだよ!」深夜のコンビニ、俺の目の前に現れたのは大学の友人・拓也だった。いつもは理論派で冷静沈着。課題提出前でもテンパることのない男が、堂々と洗面器を頭にかぶって突っ立っていた。「え? お前、何やってんの... 2025.06.16 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #281 前の席のお客さま、くつろぎすぎです 乗り込んだ新幹線は、ほぼ満席だった。指定席に座って一息つくと、前の席に座った乗客がすぐさまリクライニングを倒した。「おっ、随分と豪快だな……」私は少し窮屈になったスペースで、心の中で呟いた。気になって目を上げると、前の席の乗客は窓際の席に悠... 2025.06.12 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #280 冷蔵庫の中の今日も談論風発 夜、冷蔵庫を開けると中から声がした。「議長、そろそろ本日の討議を始めませんか?」私は一瞬、ドアを閉めて深呼吸し、再び冷蔵庫を開けた。牛乳パックの隣で、タマゴパックがカタカタ震えている。「時間です、議長!」議長? 誰だよ。首を伸ばして冷蔵庫を... 2025.06.11 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #277 黒幕のいる地下 大学生活にも慣れてきたある日、僕はちょっと変わった求人広告を見つけた。『黒幕募集:簡単なお仕事です。偉そうに座って、「ククク」と笑うだけ。全身を黒塗りにします。時給1200円。交通費支給』気になる。「黒幕」という響きと「時給1200円」のミ... 2025.06.10 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #272 おじいちゃんのペットドローン 「ペットがドローンなんて、冗談じゃない!」そう言って祖父がドローンに箒を振り回したのは、つい三か月前のことだ。世間では、ドローンがペットとして急激に流行りだしていた。猫型や犬型のロボットとは違い、ドローンはあくまでもドローンの形をしている。... 2025.06.05 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #270 イグアナ通学路 朝、目を覚ましてカーテンを開けると、いつものように巨大なイグアナが庭にいた。俺は制服に着替え、トーストをくわえながら外へ出る。イグアナはすでに俺を待っていた。「おはよう、グスタボ」そう、俺はこいつをグスタボと呼んでいる。名前の由来はよく覚え... 2025.06.04 ちいさな物語変な話
ちいさな物語 #269 仮病師の奥義 「仮病は、他人に知られないことが最低限のマナーである」そう語るのは、倉持朔太郎くらもちさくたろう、三十七歳。自称・仮病師。正式な職業ではない。しかし、彼の中では仮病とは一種の“礼儀作法”として確立されていた。ズル休み――その言葉には嘘と怠慢... 2025.06.04 ちいさな物語変な話