いやもう、マジで現代社会の効率化ってのはどこまで行っちゃうんですかね?
皆さんもご存知でしょう、数年前に流行った退職代行。
そのとき僕はまだ笑っていました。いやまあ、気まずいもんな、とは思ったわけです。上司に「辞めます」と言うの、胃がきゅっとしますよ。
しかし、あれが全ての元凶、いや、全てのビッグバンの始まりだったわけです。
正直、今の代行ブームはそんなチャチなレベルじゃないんです。
控えめに言って、今の日本は「代行のインフレ」が限界突破しちゃってるんですよ。
いいですか、落ち着いて聞いてくださいね。最近じゃ、謝罪代行なんてのは、もはやマナーの範疇といってもいいくらいです。
やらかした後輩が、「もう無理です」と顔面を紙みたいにしていたので、部長が呼びました。謝罪代行を。
現れたのは紺のスーツに銀縁眼鏡、躊躇なく相手先のオフィスの前で土下座して見せました。
「このたびは弊社社員が多大なるご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません」
さすがプロ。これは許しちゃうかも、と思った瞬間、オフィスの扉が開きました。
「謝罪を拝聴する代行として参りました」
まさかの謝罪受聴代行が登場しました。
何その業種。
そこから先はもう地獄です。
謝る側は事情を詳しく知りません。聞く側も事情を詳しく知りません。両者とも資料は持っているが、中身はざっくりした表面上のできごとのみです。
そもそも「謝罪」という依頼であるからして、さっき依頼して、さっき来てもらったというレベルです。先方も同じことでしょう。
そんなわけで――
「納期の件で謝罪を――」
「どの納期でしょうか」
「それは守秘義務上申し上げられず――」
「そうですが、実はA案件の納期の件でしたら、受聴範囲外でして」
「え? ――でしたらB案件の納期の件でしょうか」
どっちも知らんのかい――と、突っ込まざるを得ない状況なわけです。
代行同士が、知らない話に対して大いに謝罪し、ただうなずくという、令和最大の茶番が展開されるに至ったわけです。
そして「代行」は増殖し続けました。
告白代行。
別れ話代行。
飲み会の一次会だけ出席代行、二次会から自然に消える代行。
大学の出席代行だって、もう進化の極致に達してます。
今の学生は学費を払って(もしくは親に払ってもらって)、さらにバイト代で代行費用を払い、プロの「出席代行」を講義に行かせるんです。
バカな学生だな――で話は終わらない。
教授だって自分の研究に忙しいから、自身の声を学習させたAIアバターに講義を代行させる。
結果として、AIアバターが熱弁を振るい、それを代行業者のバイトたちがスマホをいじりながら聞いてるという状況が散見されるようになります。
さらにですよ、最近僕が一番「これは終わったな」と思ったのは、告白代行です。
ある男が、好きな女の子に告白するのが怖くて代行を頼んだんです。
そしたらその女の子の方も、告白の返事をするのが気まずいからって代行を立てました。
結果、代行業者同士がデートして、代行業者同士が「では交際の方向で」って契約書を交わして業務を終了させました。
当の本人たちは家でゲームしているときに、交際がスタートした旨連絡を受けたという次第です。
これ、もはや恋愛じゃなくて、ただの外注管理ですよね?
恋愛の「おいしいところ」まで他人に丸投げして、一体何が残るっていうんでしょうか。
――といいつつ、実のところ、僕もやってるんですよね。代行依頼を。
母から「たまにはちゃんと顔見せなさい」と言われ、つい実家帰省代行を頼んでしまいました。
来たのは、僕より少しだけ感じのいい、僕に似た男でした。事前に写真を送っているのでちょうど背格好の似た人を派遣してくれたようでした。
「お母さまの好きな羊羹の銘柄は」
「銘柄までは知らないけど、たしか栗が入ったヤツ」
手土産まで選んでくれるという手厚いサービスです。
代行の彼は本当に優秀でした。
提出された報告書には、実家での会話やできごとが事細かに記され、次回訪問時のアドバイスまで記されているんです。
もう息子を代わってもらった方がいいレベルなので笑ってしまいました。
ついでにもうひとつ恥をさらしておきます。(元)恋人の麻衣の件です。
まだつき合っていたときの話ですが、「一度ちゃんと話したい」という連絡が来ました。
そのとき、僕は「うわ、とうとう来た。絶対重い話だ」と瞬時に身構えました。
僕は一ミリもちゃんと話したくなかったので、「重めの話聞き取り代行」を依頼しました。
実のところ交際は順調とは言えず、とはいえ改めて話し合うのも面倒くさい。そんな倦怠期特有の弛緩した空気が流れていることに、お互い気づいていました。
喫茶店に現れたのは、包容力を人型にしたようなふくよかで人生経験豊富そうな女性でした。
「安心してください。重めの話をすべて受け止めてまいります」
頼もしい。ところが麻衣の方も代行を依頼していたようでした。
彼女の隣に座った男が名刺を差し出す。
「本日は『別れ話切り出し代行』として参りました」
もう「別れ話」って言っちゃってるじゃないですか。想定の範囲内とはいえ、これはプロとしてどうなんでしょう。
そして代行同士が仕事をしている間、僕と麻衣は席を外しました。
同席しては代行を呼んだ意味がないからです。僕はゲームセンターで時間をつぶし、気づくとスマホに「話は終わりました」という連絡が入っていました。
実に簡単に話がついたわけです。僕も、おそらく麻衣も嫌な気持ちにならずに、すべてを終わらせることができました。
実は僕、この経験談を書くのも面倒で「執筆代行」のAIに頼んでいます。
まあ、読んでる皆さんも、実は「読書代行」のAIに要約させて、内容だけ把握している状況だとは思いますが。今どき原書を一字一字黙読している人なんてそうそういません。
人間が人間であるための「面倒くささ」を全部パージした結果、世界にはありとあらゆる「代行」だけが彷徨っているといえますね。
もう何が自分の気持ちなのか、自分の言葉なのか、自分自身さっぱり分からなくなってしまいました。


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