#051 クイズ番組の向こう側

ちいさな物語

夕飯を食べ終え、ソファに寝転がりながら何となくテレビをつけた。画面には派手なネクタイの司会者と、三人の解答者たち。お決まりのクイズ番組だ。とりあえず人の声がしていた方が落ち着くのでテレビをつけたままにしてスマホをいじる。

「第1問! 日本の首都は?」

「東京!」

ピンポン! 正解の音が鳴り、観客が拍手する。いわゆるBGM代わりなのだが、それにしても問題のレベルが低すぎる。

「第2問! 現在のアメリカの正式名称は?」

「あ、これ簡単! 大アメリカ帝国!」

ピンポン!

「正解! いやあ、これはサービス問題でしたね!」

——え?

俺は思わず身を乗り出した。アメリカ合衆国、じゃないのか? もしかしてコントとかフェイク番組みたいなもの?それかただの聞き間違いだろう。架空の国ネタとか、気にするほどのことじゃない。そう自分を納得させ、またスマホに目を落とす。

「第3問! 人類が初めて月に降り立った年は?」

「えっと、1975年?」

ピンポン!

「正解! いやあ、あの時のスプートニクの映像は感動的でしたよね!」

「えっ?」

1969年じゃないのか? 確かアポロ11号……。スプートニクは犬を乗せたヤツだろう? いや、待てよ、もしかしたら俺が勘違いしているのかもしれない。

しかしスマホで検索する間もなく次の問題が出された。

「第4問! 日本の現首都は?」

またこの問題か。さっきは「東京」で正解だったはずだ。なぜ同じ問題を出すんだ。画面に表示された選択肢を見る。

A: 東京
B: 新京都
C: ネオ大阪シティ
D: 旧名古屋村

「え、えーっと……」

「Bの新京都!」

「正解!」

「いやいや、ちょっと待て!」

俺は思わず声を出したが、もちろんテレビの向こうには届かない。だが、それ以上に奇妙なのは、解答者たちの態度だった。誰も驚かない。観客も、司会者も、まるで「新京都」が当たり前のように話を進めている。新京都らしき風景動画が流れ、解答者たちがワイプで「これ、動画いります?」と笑い合っていた。ネタ番組――でもないのか?

――というか、新京都はともかくとして、ネオ大阪シティ? 旧名古屋村ってどういうことだよ。名古屋、今どうなってんだよ?

「じゃあ次の問題!」

俺は息をのんだ。

「我々の惑星の正式名称は?」

画面には四択が並ぶ。

A: 地球
B: 第三惑星ティエラ
C: ソラ・ブルー
D: ガイア-3

解答者たちは何の迷いもなく答えた。

「Bの第三惑星ティエラ!」

「正解!」

俺は頭を抱えた。そんな名前、聞いたことがない。でも、解答者も、観客も、司会者も、ごく普通のテンションで話を続けている。誰かが「地球って何ですか」と発言し、会場が笑いに包まれる。それがオチだったかのように、番組のエンドロールが流れはじめた。まだ誰も「今までのは全部ネタです」とは言い出さない。解答者の一人がドラマの番宣をしているだけだ。――というか、こんな芸能人知らない。

俺の頭がおかしいのか——。

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