#238 我が家の蓄財アクティビティ

ちいさな物語

「家族で沖縄旅行に行こう!」

父のその一言で、私たち一家の蓄財生活が始まった。

最初はただ、ありふれた旅行資金作りだった。

しかし、それは予想外の盛り上がりを見せ、旅行そのものよりも貯金活動の楽しさが、家族の話題の中心となった。

まず最初に決めたのは、リビングに置いた大きな透明な瓶に、毎日お釣りでもらった小銭を入れていく「小銭貯金」というものだった。

最初は父が余った小銭をポケットからジャラジャラ入れるだけだったが、次第に家族それぞれが競うようになった。

母は、スーパーの割引やポイント還元を駆使し、浮いたお金は札であっても、瓶に投入した。

それを見ていた姉はさすがにバイト代を入れるのはキツいと、フリマアプリで不要な服やアクセサリーを売り、それで得たお金を入れるようになった。

そして、そのままフリマアプリにどハマりし、始終「売れるものはないか」と、目を光らせるようになる。

弟は、読まなくなった漫画をまとめてリサイクルショップに持ち込み、そのお金を入れた。そして、他にできることはないのかと、日々考え込んでいる。

私自身も、毎週末は暇つぶし的にカフェに行くのをやめ、自宅で工夫して作ったスイーツとお茶で楽しむようになった。

浮いたお金を貯金瓶に入れる瞬間が、楽しみになっていた。

「今日は500円玉が3枚もある!」

父が嬉しそうに瓶に入れると、家族みんなで歓声をあげた。

いつしか瓶はいっぱいになり、それを母が銀行で両替して口座に入金する日には、家族全員がワクワクして通帳をのぞきこんだ。

その時点で旅行資金の目標は半分を超えていた。

貯金が盛り上がってくると、新しいアイデアが次々と生まれる。

父は、会社帰りにUber Eatsでの配達業務を始め、得た収入をすべて家族貯金に回した。

「運動不足解消にもなって楽しいぞ」と笑顔で報告した。

母は、趣味のハンドメイド雑貨をフリマアプリで販売し、予想以上に売れたと喜んでいた。

姉と私はそれに協力し、撮影や商品の梱包を手伝う。売れたときの母の嬉しそうな顔を見るのが、何より嬉しかった。

弟は庭で野菜を育て始め、それがうまく収穫できるようになると、近所の人に安く売り、それで得たささやかなお金を瓶に入れた。

近所の人も「野菜が安く手に入る」と喜んでくれている。

「これ、僕が育てたトマトだよ!」と自慢げに手売りすることもあった。

貯金が増えるにつれて、私たちはさらにお金の使い方にも慎重になった。

電気やガスはこまめに消す。水も使いすぎないように細心の注意を払う。節約のアイデアを各所から入手し、試行錯誤するのもおもしろかった。

さらに、食費の節約のため、弟の家庭菜園は家族全員で世話をして、拡張させた。

だんだん旅行という目的を忘れてしまいそうになるほど、家族全員力を合わせてお金を貯めるという過程そのものが楽しくなっていた。

ついに目標額に達した日、家族全員で祝杯(と、祝ジュース)をあげた。

「やった! これで沖縄に行けるぞ!」

父が目標額達成の雄叫びをあげるも、みんななぜか沈黙した。

「あれ? なんでみんな嬉しそうじゃないの?」

弟が無邪気に言う。

姉が笑いながら言った。

「旅行もいいけどさ、なんかお金貯めてるの楽しかったよね。もうやらなくていいと言われても困っちゃうな」

母も笑った。

「そうね、実は私もまだいろいろ作ってみたいものがあるのよね」

父は困ったように笑いながら言った。

「実を言うと、俺も配達が結構楽しくなってたんだよな。お客さんとの交流とかも悪くないし、評価も高くなってきたから辞めるのが惜しい」

みんな同じ気持ちだったのだ。

「じゃあ、みんなでハワイに行こうよ!」

弟の提案に、家族全員が歓声をあげた。

我が家では蓄財が完全に楽しいアクティビティと化していた。

ハワイ旅行はあくまで副次的な目標で、達成するまでのプロセス自体が最高のエンターテインメントだ。

父は定期的に配達を続け、母は自身のハンドメイドのネットショップをオープンさせ、活動を広げていった。

姉はファッション系のブログを書いて収入を増やし、弟は地域のイベントで野菜販売をするまでになった。

私もお菓子作りをSNSで公開し、人気が出始めた。これから姉にブログの書き方を教わって、そちらも収入源にするつもりだ。そのうち姉と協力して動画配信もやってみる予定である。

家族みんなで収支を報告し合う毎日のミーティングは、どんなテレビ番組よりも楽しかった。

「あのさ、もしかして私たち、お金を貯めること自体が趣味になっちゃったんじゃない?」

姉が笑いながら言った。

みんなで大笑いしたが、きっとその通りだと思う。

旅行はいつでも行けるけど、家族みんなで楽しみながら何かを達成する喜びは、もしかしたらそれ以上に貴重な経験なのかもしれない。

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