歌人

ちいさな物語

#171 空き缶の恩返し

その日は特に変わったこともなく、俺は学校からの帰り道を歩いていた。ふと足元を見ると、道端に潰れた空き缶が転がっている。ジュースの缶だ。誰かが適当に捨てたのだろう。「まったく、マナーがなってないな……」俺は溜息をつきながら、その缶を拾い、近く...
ちいさな物語

#170 地下三階

放課後、僕たちはとうとう旧校舎の地下へ続く階段を見つけてしまった。噂では地下に三階まであるらしいけれど、階段を見つけられなくて、降りられないらしい。クラスでも何人かが階段を探しに行ったが、なかったと言っていた。そう聞くと地下を確かめたくなる...
ちいさな物語

#169 世界がゲームになった日

いつも通りの朝だったはずだ。けれど窓を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。通勤中のサラリーマン二人が突如、道端で格闘ゲームのキャラクターのように激しく殴り合い始めたのだ。「光弾拳!」ネクタイを締めた男性が叫ぶと、実際に手から光るエネ...
ちいさな物語

#168 勇魚の骨と海神の約束

むかしむかし、海辺の村にね、五助という漁師がいたんだと。五助は毎日、小舟に乗って漁をして暮らしておった。ある日、大きな嵐の翌朝に浜辺を歩いていると、見たこともないような大きな骨が砂浜に打ち上げられていたんだそうな。「これは何の骨じゃろう?」...
ちいさな物語

#167 世界中でただ一人

目が覚めると、世界は静寂に包まれていた。いつものように目覚まし時計は鳴らず、窓の外から車の音も、隣人の話し声も生活音もまったく聞こえなかった。不審に思い外に出ると、そこには誰一人いなかった。街は何もかもそのままだったが、ただ人間だけが消えて...
SF

#166 隕石から生まれたもの

ある朝、庭に見知らぬ隕石が落ちていた。拳ほどの大きさのそれは、奇妙に脈動しており、気持ち悪いので触る気になれず放置していた。数日後、その気持ち悪い隕石が割れて何かが生まれてきた。それは透明でゼリー状のアメーバみたいなものだったが、僕がそれを...
ちいさな物語

#165 老婆の井戸と願いごと

「願いを叶えてやろう。大切な何かと引きかえに」——井戸のそばの老婆が差し出す取引の、ほんとうの意味とは。
ちいさな物語

#164 終わらないエスカレーター

その日も私はいつものように駅へ向かった。改札を通り、乗り慣れたエスカレーターに足をかける。足元には、「お気をつけてご利用ください」というありふれた注意書きがある。無意識のうちに視線を下げ、ぼんやりとその文字を眺めていた。ふと、妙に長い時間エ...
ちいさな物語

#163 そこにある道

引っ越したばかりのアパートは、静かでとても居心地が良かった。ただ一つ、部屋の真ん中を通る妙な「通り道」があることを除いて。最初に異変を感じたのは引っ越して数日後の深夜だった。寝付けずにぼんやり天井を眺めていると、ふと誰かが部屋の中を横切った...
ちいさな物語

#162 名探偵コーディネーター

世間には数多くの名探偵がいるが、彼らが活躍できるのは偶然ではない。実は私のような、探偵が活躍できるよう事件を演出する裏方「事件コーディネーター」が活躍しているからなのだ。探偵にも色々なタイプがいる。心理戦が得意な者、緻密な科学的捜査を好む者...