くすっと笑える

ちいさな物語

#650 恋文の才能

現代だからこそ、あえての紙だ。意中の相手である美咲ちゃんに向け、僕は三日三晩かけて渾身のラブレターを書き上げた。LINEやDMじゃ伝わらない情熱を、万年筆で上質な和紙に託したのだ。彼女はよく本(電子書籍じゃない!)を読んでいるし、持ち物から...
ちいさな物語

#648 勇者様の凶悪なるスローライフ

みなさんは「スローライフ」にどんなイメージをお持ちでしょうか。普通はのどかな田舎で自給自足の生活を営み、朝は鳥のさえずりで目覚めてコーヒーをすすり、夜は満天の星空を見上げて静かに眠る。そういう文明の喧騒から離れた癒やしの時間を想像しますよね...
ちいさな物語

#644 休憩室の死闘

いいか、異能バトルというのは派手な火炎や雷撃だけが全てではない。むしろ現代社会における真の異能者同士の闘争とは、警察に通報されず、SNSに拡散されず、かつ相手の精神を確実に削り取る微細な領域にこそ存在するのだと私は断言したい。今、平日の午後...
ちいさな物語

#642 何もない空き地

地方都市の片隅に、特別何の特徴もない空き地が存在していた。周囲を錆びついた金網フェンスに囲まれており、中は雑草が生い茂るばかり。通りかかる誰もが一瞥すらせず素通りするような、まったく顧みられない空き地だった。ある秋の午後のこと、互いに面識の...
イヤな話

#631 強制的に加害者

オフィスの休憩室で、私と同僚の佐藤さん、後輩の鈴木くんが弁当を食べていた。そこに、派遣社員の三諸さんが「ちょっと聞いてください」とお弁当を持って加わってきた。彼女の顔を見た瞬間、私たちの箸がいっせいに止まった。三諸さんの左の頬に、ファンデー...
SF

#630 ハーブの種からヤバいものが生えてきた件

いやね、ちょっと聞いてほしいんですけど、そもそも僕みたいなインドア派の人間がホームセンターの園芸コーナーに足を運んだこと自体、「丁寧な暮らし」という概念に脳内OSがカーネルパニックを起こしてしまったというか、思考アルゴリズムが暴走してしまっ...
ちいさな物語

#617 暗闇のポップコーン・サスペンス

私は今、人生最大にして最高にくだらない危機に直面している。場所は薄暗い映画館のシアター4、中央やや後方の良席である。この映画館はかなり古いが、ゆっくりと鑑賞できる穴場なのだ。確かに設備は古いし、「お化けが出る」なんてくだらないことをいう連中...
ちいさな物語

#615 三分間の特異点

カチ、と無機質な音が響き、電気ケトルのレバーが跳ねあがった。部屋を支配していた狂おしいほどの沸騰音がゆるやかに止み、深夜二時の冷え切った空気が再び私のワンルームを包み込む。私は熟練の外科医のような手つきで、カップ麺のプラスチックフィルムを剥...
ちいさな物語

#613 友だちの家の猫

友だちの慎也が猫を飼っているというので、猫好きの私は見せてもらいに行った。でもそのリンリンと呼ばれている猫はどこからどう見ても猫の着ぐるみを着たおっさんだった。「ずいぶんと……でかい猫だね」とコメントした後が続かない。しゃべったりはしないが...
ちいさな物語

#607 幼馴染が俺を好きらしいがそんなわけがない

「好き」高校二年の秋。放課後の教室で、幼馴染の七瀬が突然そう言った。反射的に後ろを見た。誰もいない。いや待て。こういう時って大抵、どこかに友だちが隠れているんだよ。スマホで撮影していて、俺が調子に乗った途端に「うぇーい!」って出てくるてはず...