ぞわっとする

ちいさな物語

#612 地獄のゆりかご

地獄を見ることができるツアーがあるという、奇妙な噂を耳にした。普通の旅行代理店で行けるはずもなく、私は人脈を駆使してある男にたどり着いた。地獄観光ツアーは紹介制で、その参加枠を持っていたのは、臨死体験が豊富だというAさんだった。何度も死にか...
ちいさな物語

#611 パチンコ店の怪

今から十年ほど前の話だ。俺は郊外のパチンコ店でバイトをしていたんだ。あんた、知ってるかな。国道の脇の「ゴールデンラッキー」って店だ。まだあるかわからないけどな。当時はまだ現在とは違い、玉が筐体から外に出る仕様だった。だからパチンコ屋のバイト...
ちいさな物語

#610 黄金の鱗の竜

なあ、お前、あの山がどうして呪いの山になったのか知っているかい?今はただの荒れ果てた山だが、昔はあそこに見事な黄金の鱗を持つ竜が住んでいたんだよ。山もとても豊かでね。その頃はこの村もとても豊かな村だった。秋はたくさんの実りがあり、井戸の水も...
ちいさな物語

609 三人称の侵略

鈴木が目を覚ますと、見慣れたはずの天井の染みがいつもより奇妙に黒く歪んで見えた。「彼は重い体をゆっくりと起こし、昨日からの疲労を引きずりながら深いため息をついた」誰もいないはずの部屋の中に、落ち着いた低い男性の声が突然響き渡った。鈴木は驚い...
ちいさな物語

#606 部屋にいる人

四歳の息子が描く家族の絵に、見知らぬ人物が一人、また一人と増えていく。「まだ描きたい人がいるの」——。
ちいさな物語

#604 追いかけてくる未読通知

ねえ、ちょっとおかしなアプリを見つけた話を聞いてくれる?議事録をまとめたり、自動でTo doリストを作成したり、タスクを優先順位で並べ替えたり……そんな仕事効率化系のアプリを探すのが私の趣味だったんだ。仕事を効率化したいのか、アプリを使って...
ちいさな物語

#600 桃色の花の国と戦神

昔々、あるところに、それはそれはうつくしい小さな国があったんだよ。その国は一年中、やさしい桃色の花が咲き乱れていてね、まるでおとぎ話のような場所だったんだ。人々はみな豊かで心やさしく、争いごとはほとんど起きなかった。その国は少年の姿をした「...
ちいさな物語

#599 ドッペルゲンガーの正体

深夜二時のコインランドリーは、世界から切り離されたカプセルのようだった。いつもならこんな夜中にコインランドリーなんて来ない。思いがけない残業のあげく、最近洗濯をさぼっていたせいで明日着ていくシャツがなくなったのだ。眠気と戦いながら、回転する...
ちいさな物語

#598  執着の教本

「皆さん、こんにちは! 防犯系ストーカー配信者のメグです!」カメラに向かって満面の笑みを浮かべる彼女の背後には、相棒のカイトが立っていた。「カイトです。今回もまたメグのひどいストーカー行為の被害に遭っています」どっと大勢の人が笑う声の効果音...
SF

#597 月の病

月面探査船が持ち帰ったのは、輝かしい成果だけではなかった。船長だった男が、最初に見せた異変は、長時間「月を見ている」――それだけのことだった。しかし彼の体内では小さな存在が蠢き、不可逆な変化をもたらしていた。それが、地球全体を静かな絶望へと...