ぞわっとする

ちいさな物語

#632 命の恩人

山の夜は、すべてを飲み込むほどに深い黒一色だった。そんな中、私は完全に山の中で道を見失っていた。スマホの画面は暗いままで使い物にならない。懐中電灯の頼りない光だけが、霧の立ち込める不気味な木々を照らしていた。雨が激しさを増し、冷たい水滴が容...
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#629 宇宙を湛える器

ある朝、坂本が目を覚ますと、六畳間の真ん中に白い洗面器が置かれていた。それはいたって平凡な、どこにでも売っているプラスチック製の洗面器だった。ただ一つ奇妙だったのは、その中に澄んだ水がなみなみと張られていることだった。坂本は首を傾げながら、...
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#627 オルゴールの夢

祖父が亡くなり、その遺品を整理していた時、僕は書斎の奥にある古い桐箱から一台のオルゴールを見つけた。箱から出した際に説明書のようなものが落ちたが、それはひどく黒ずんでいて、読むことはできなかった。オルゴールは黒ずんだ真鍮製の小さな箱のような...
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#625 青空の顎

かつて、見上げる空は自由の象徴であり、人々に希望を与える存在だった。しかし今、私たちの頭上に広がる空は、巨大で冷酷な屠殺場へと姿を変えている。白い綿菓子のように無害だったはずの水滴と氷晶の塊は、ある日を境に、飢えた猛獣へと変貌を遂げた。空か...
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#624 デパートの別館で

次は私の番ですね。皆さんは、休日の大きなデパートへ行かれたことはありますか。にぎやかな照明と喧騒に息が詰まりそうで、とても怪談とは無関係な場所に思えるんじゃないでしょうか。でも実は私、そこでとても怖い思いをしたんです。数年前の夏、大混雑する...
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#622 溝

携帯の画面が、短く震える。「暇なら、うちに来ないか」高校からの友人である佐々木の、ごく普通の誘いだった。ちょうど手持ち無沙汰だった私は、すばやくメッセージに返信し、上着を羽織って彼が暮らすマンションへと向かった。駅から徒歩五分、築年数は浅く...
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#620 Bluetooth

あ、次は私の番ですね。霊感とかがないので幽霊の話とかじゃないんですが……私が数年前に体験した話をさせてください。当時、私は大学を卒業したばかりで、古いマンションで一人暮らしを始めたところでした。格安物件でしたが、初めての一人暮らしということ...
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#612 地獄のゆりかご

地獄を見ることができるツアーがあるという、奇妙な噂を耳にした。普通の旅行代理店で行けるはずもなく、私は人脈を駆使してある男にたどり着いた。地獄観光ツアーは紹介制で、その参加枠を持っていたのは、臨死体験が豊富だというAさんだった。何度も死にか...
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#611 パチンコ店の怪

今から十年ほど前の話だ。俺は郊外のパチンコ店でバイトをしていたんだ。あんた、知ってるかな。国道の脇の「ゴールデンラッキー」って店だ。まだあるかわからないけどな。当時はまだ現在とは違い、玉が筐体から外に出る仕様だった。だからパチンコ屋のバイト...
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609 三人称の侵略

鈴木が目を覚ますと、見慣れたはずの天井の染みがいつもより奇妙に黒く歪んで見えた。「彼は重い体をゆっくりと起こし、昨日からの疲労を引きずりながら深いため息をついた」誰もいないはずの部屋の中に、落ち着いた低い男性の声が突然響き渡った。鈴木は驚い...