ファンタジー

ちいさな物語

#605 勤務先の異世界支社に飛ばされたけど質問ある?

あ、どうも。聞こえてます? こっちからだと通信、不安定なんですよね、基本。ええ、そうです。まさに僕が、例のスレを立てた本人ですよ。「勤務先の異世界支店に飛ばされたけど質問ある?」ってやつ。まさかあんなに伸びるとは思いませんでしたけど、まあ、...
ちいさな物語

#603 扉職人の理

なあ、あんた。そこにある古びた木の扉を見てくれよ。ただの板切れに見えるかもしれないが、こいつが完成したときには、ここから一歩踏み出すだけで遥か遠くの異国へ行けるようになるんだ。俺はこれを作る扉職人の弟子だ。師匠は、この道では知らない者がいな...
ちいさな物語

#601 多すぎた祝福

王子の誕生に、二千もの妖精が祝福を授けた。完璧に生まれついた王子に、ただひとつだけ、足りないものがあった。
ちいさな物語

#595 夜をつかまえた

なあ、信じてくれるか分からないけど、俺、「夜」を飼ってたことがあるんだ。いや、比喩じゃなくて文字通りの意味でさ。あの日、まだ空が白み始めたばかりの午前五時くらいだったかな。散歩に出ようとしたら、マンションの植え込みの下に、なんだか黒くてキラ...
ちいさな物語

#591 時喰らいの呪い

王都に最初の春の風が吹き抜けた日、凶暴な「時喰らい」の首を馬上に下げた騎士団長アルドが黒鉄の門をくぐって帰還した。胸当ては深く裂け、肩には鋭い爪痕が四本、血はまだ乾ききっていない。それでもアルドは手綱を放さず、部下たちに指示をとばしている。...
ちいさな物語

#573 忘れられた場所

王都へ向かうため、私は日暮れの乗合馬車に乗った。地図師ギルドの見習いになったばかりで、胸の中はやる気よりも、失敗して笑われた記憶のほうでいっぱいだ。馬車は古く、扉には消えかけた紋章があり、御者は深く頭巾をかぶって顔を見せない。青いランタンが...
ちいさな物語

#566 叶えるお守り

駅から坂を十分ほど上ると、杉木立に囲まれた小さな神社が現れた。鳥居の横の掲示板には、地元の祭りの案内と「清らかな心」という墨書が貼られている。いかにも地域に密着した小さな神社という感じだ。僕の聞いた噂は本当なのだろうか。鳥居をくぐって進むと...
ちいさな物語

#562 まずは気軽な散歩から

運動不足を解消しようと思って、僕はスマホに散歩アプリを入れた。歩数を数えて、歩いた距離でレベルが上がり、バッジがもらえる。ただそれだけの、よくある健康系アプリだ。最初の数日は楽しかった。近所の川沿いを歩くと「散歩レベル2」「健康に一歩近づき...
ちいさな物語

#549 何もできない彼女と僕の旅

僕はだいたい何でもできた。剣も振れるし、魔法も使える。地図を読めば迷わないし、罠も見抜ける。料理も、裁縫も、交渉も、計算も、それなり以上にこなせる。できないことも少しやってみれば、すぐにできるようになった。ところが彼女は違った。剣は持てない...
ちいさな物語

#547 足がもつれて魔王城を制圧してしまいました

「あ、やべっ」それが、世界が救われた瞬間に発せられた声だった。場所は深夜の魔王城の最上階、「玉座の間」。魔族の皆様がぐっすりとお休みになられている間に、フローリングのワックスがけを終わらせる。それが、派遣清掃員である僕、テンタの任務だった。...