コメディ

ちいさな物語

#650 恋文の才能

現代だからこそ、あえての紙だ。意中の相手である美咲ちゃんに向け、僕は三日三晩かけて渾身のラブレターを書き上げた。LINEやDMじゃ伝わらない情熱を、万年筆で上質な和紙に託したのだ。彼女はよく本(電子書籍じゃない!)を読んでいるし、持ち物から...
ちいさな物語

#644 休憩室の死闘

いいか、異能バトルというのは派手な火炎や雷撃だけが全てではない。むしろ現代社会における真の異能者同士の闘争とは、警察に通報されず、SNSに拡散されず、かつ相手の精神を確実に削り取る微細な領域にこそ存在するのだと私は断言したい。今、平日の午後...
イヤな話

#631 強制的に加害者

オフィスの休憩室で、私と同僚の佐藤さん、後輩の鈴木くんが弁当を食べていた。そこに、派遣社員の三諸さんが「ちょっと聞いてください」とお弁当を持って加わってきた。彼女の顔を見た瞬間、私たちの箸がいっせいに止まった。三諸さんの左の頬に、ファンデー...
ちいさな物語

#617 暗闇のポップコーン・サスペンス

私は今、人生最大にして最高にくだらない危機に直面している。場所は薄暗い映画館のシアター4、中央やや後方の良席である。この映画館はかなり古いが、ゆっくりと鑑賞できる穴場なのだ。確かに設備は古いし、「お化けが出る」なんてくだらないことをいう連中...
ちいさな物語

#615 三分間の特異点

カチ、と無機質な音が響き、電気ケトルのレバーが跳ねあがった。部屋を支配していた狂おしいほどの沸騰音がゆるやかに止み、深夜二時の冷え切った空気が再び私のワンルームを包み込む。私は熟練の外科医のような手つきで、カップ麺のプラスチックフィルムを剥...
ちいさな物語

#613 友だちの家の猫

友だちの慎也が猫を飼っているというので、猫好きの私は見せてもらいに行った。でもそのリンリンと呼ばれている猫はどこからどう見ても猫の着ぐるみを着たおっさんだった。「ずいぶんと……でかい猫だね」とコメントした後が続かない。しゃべったりはしないが...
ちいさな物語

#596 退屈な休暇の終わらせ方

ねえ、ちょっと聞いてくれますか?これ、誰かに話したくてたまらなかったんですよ。信じられないかもしれないけれど、つい先週、本当にあった話なんです。舞台は、あの悪名高い「少女連続失踪事件」を解決した直後のこと。僕の相棒であるあの探偵――名前は伏...
ちいさな物語

#594 守護の手つきが荒すぎる

霊が見えるという知り合いの真田、ある日いきなり顔をしかめられた。「うわぁ」第一声がそれは失礼だろうと思ったが、真田は俺の肩のあたりを見たまま、動画視聴中に超絶長い広告が入ったような顔をして見ている。「ずいぶんと強い守護霊が……ついてますね」...
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#593 間違い電話

Aという男は、顔はふつう、成績もふつう、運動もそこそこ――なのにとある事象だけが異常だった。それは、モテるとか、営業がうまいとか、そういうポジティブな異常ではない。間違い電話が、意味わからん頻度でかかってくるのである。今どき? 今どき間違い...
ちいさな物語

#588 サービスタイム

うちの近所のスーパーは、夕方六時を過ぎると空気が変わる。惣菜コーナー周辺を中心に客の様子が不自然になるのだ。誰もが興味なさそうな顔をしながら、何度も同じ場所をうろうろし始める。全員、似たような軌道を描きながら、回遊魚のごとく店内を回り始める...