じんとくる

ちいさな物語

#646 魔法のダイス

怪しげな骨董品が乱雑に並ぶ露店の奥で、そのダイスは静かに怪しい光を放っていた。透明な結晶の中に真鍮の緻密な装飾を封じ込めたそのダイスは、どこか神聖でありながら不気味な雰囲気を漂わせている。店主の老人は不敵な笑みを浮かべ、「これは望む運命を引...
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#643 待合室の扉

僕には、幼い頃からずっと誰にも言えない秘密がある。言えないというか、言ってもどうせ「ただの夢だ」と言われるだけの秘密だ。人は誰でも寝ている間に夢を見るけれど、夢に入る前に必ず通される場所があることを知っている人はいない。そこは、驚くほど真っ...
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#641 記憶をすする

森の影が長くなり、太陽が地平線の向こうへと沈みきった頃、私はその洋館を見つけた。周囲には獣の鳴き声ひとつ響かず、ただ風が木々を揺らす乾いた音だけが耳を刺していた。地図にも載っていない、およそ人が住んでいるとは思えない古びたレンガ造りの館だっ...
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#639 時を奏ねるクジラ

港の最果てにたたずむ赤レンガ造りの第五倉庫は、半世紀以上も前に閉鎖されて以来、人々の記憶から消え去り、置き去りにされたかのように静まり返っていた。夏の終わりの大規模な湾岸再開発計画に伴い、私は解体前の物品整理を行うアルバイトに応募したのだっ...
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#638 不在の証明

平日の午後の美術館は、まるで世界の底に沈んでしまったかのように静まり返っていた。私は特に目的もなく、ただ突然に降り出した激しい雨から逃れるために、その古い建物へと足を踏み入れた。湿った空気の漂う薄暗い展示室の最奥に、他とは明らかに雰囲気の異...
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#637 復讐の夜明け

漆黒の夜の帳が静かに下りる刻、私はついに長年追い続けた復讐の標的が待つ場所へとたどり着いた。冷たい風が吹き抜ける荒涼とした古城の最上階、月明かりだけが照らす部屋で、その男は逃げる素振りすら見せず静かに待っていた。漆黒の重厚な外套を身に纏った...
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#635 世界を彩る

ある朝、目を覚ますと、妻が私のことを「アジサイ」と呼んだ。私はまじまじと彼女を見たが、その表情は至って真面目だった。外出の準備をしようと、財布から運転免許証を取り出してみると、氏名欄には確かに太いゴシック体で「アジサイ」と印刷されていた。ス...
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#633 銀色の鳥

保科の目に見える世界はいつも色で満ちていた。彼は自他共に認めるほど強い霊感と、共感覚シナスタジアの持ち主だった。しかし、彼が見るものは、世間で恐れられているようなおどろおどろしい幽霊の姿ではない。保科の霊感が捉えるのは、人々がその場所で発す...
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#628 時の器

遠藤はいつも、スマートウォッチの画面に表示されるデジタル時計と睨み合っていた。次のアポイントまであと十四分二十五秒、資料の修正に使えるのはわずか八分四十八秒。彼の頭の中には分刻み、いや秒刻みの予定表が広がっていた。無駄な時間は一秒たりとも存...
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#626 居酒屋の観察者

私はお酒がほとんど飲めない。カシスオレンジを一杯飲むだけで顔が真っ赤になり、二杯目には頭痛が始まるほどだ。そんな私が、毎週末になると決まって居酒屋へ足を運ぶ。目的はお酒ではなく、おいしい食事とそこに集まる人間たちの営みだ。居酒屋という場所は...