日常・現代

ちいさな物語

#610 黄金の鱗の竜

なあ、お前、あの山がどうして呪いの山になったのか知っているかい?今はただの荒れ果てた山だが、昔はあそこに見事な黄金の鱗を持つ竜が住んでいたんだよ。山もとても豊かでね。その頃はこの村もとても豊かな村だった。秋はたくさんの実りがあり、井戸の水も...
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#602 つまずく理由

夏の気配が混じり始めた午後の日差しを浴びながら、私は駅前の広場にあるベンチに腰を下ろした。手元には、コンビニで買ったばかりの少し甘すぎるカフェオレがある。午前中の会議で削り取られた精神を修復するには、このくらいの糖分がちょうどいい。ふと目を...
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#599 ドッペルゲンガーの正体

深夜二時のコインランドリーは、世界から切り離されたカプセルのようだった。いつもならこんな夜中にコインランドリーなんて来ない。思いがけない残業のあげく、最近洗濯をさぼっていたせいで明日着ていくシャツがなくなったのだ。眠気と戦いながら、回転する...
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#590 新しい正装

かつて、ネクタイを締め、窮屈なジャケットに身を包んで通勤していた時代があった。今となっては、それは歴史の教科書に載る「非効率な時代の奇習」として片付けられている。在宅勤務が完全に定着した現在、社会の価値観は一変した。「移動時間は無駄」「化粧...
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#589 町内会の幽霊

その廃屋は、町の北端で静かに朽ち果てていた。かつては「出る」と噂され、夏休みともなれば肝試しに訪れる子供たちの絶叫が響いたものだが、それも今は昔の話だ。最近の子供たちはスマートフォンの画面に夢中で、埃っぽい古い家屋を探索するよりも、仮想空間...
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#585 月額親友サービス

俺とマコトは親友だ。いや、正確には、親友のサブスクで来てくれたのがマコトだった。月額九千八百円。高いのか安いのか、最初のころはよくわからなかった。でも、「よぅ、調子はどうだ?」と肩を叩いてくれる人間がいるだけで、ほっとする。それに、連絡をく...
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#583 風の楽器

その国の西のはずれに、風の鳴る谷と呼ばれる場所がありました。谷は細長く、大地を裂くように伸びていて、底はどれほど目を凝らしても見えません。谷に近づくと、いつも風が吹いています。強い日も、弱い日も、風は必ず音を立て、まるで誰かが笛を吹いている...
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#580 持ち帰り

私は、ごく普通のサラリーマンだ。特別な才能があるわけでも、霊感があるわけでもない。少なくとも、先月のあの日まではそう信じていた。私の「とある変化」に、何かのきっかけがあったのかどうか、それすらよくわからない。あの日、仕事の都合で、私は地方の...
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#579 はさまれているもの

市立図書館で働きはじめて三日目、返却ポストの中から、私は一冊の古い短編集を手にしていた。背表紙は日に焼け、表紙もびっくりするほどぼろぼろだ。随分と古い本だなと、パラパラとめくってみた。すると、頁の間から薄い和紙に包まれた麦の穂が一本、はらり...
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#577 意識高い系ねこの哲学

雨の降る土曜日だった。路地裏の段ボール箱にいたのは、震える子猫……ではなく、どこか遠い未来を見据えているかのような眼差しをした一匹のサバトラ猫だった。「ニャア(お前、リソースに余裕はありそうだな。アライアンスを組まないか?)」猫の鳴き声と二...