祖父が亡くなり、その遺品を整理していた時、僕は書斎の奥にある古い桐箱から一台のオルゴールを見つけた。
箱から出した際に説明書のようなものが落ちたが、それはひどく黒ずんでいて、読むことはできなかった。
オルゴールは黒ずんだ真鍮製の小さな箱のような形で、上部には精巧な歯車がいくつも露出している斬新なデザインをしていた。
横に付いているゼンマイを回そうとしたが、完全に錆びついているのか、どれだけ力を込めても一ミリも動かなかった。
音が出ないならガラクタだと思いながらも、そのたたずまいから価値のあるもののように見えて捨てられず、僕はそれを自分のマンションの寝室にある机の上に置いた。
その日の夜、僕がベッドに入って深い眠りに落ちかけた頃、突然、部屋の中に奇妙な音が響き渡った。
それは、ひどく調律の狂った、真鍮がきしむような不協和音のオルゴールの音色だった。しかもそれはメロディを成していない。ひどく落ち着かない音だ。
跳ね起きるようにして視線を机に向けると、あの動かないはずのオルゴールが、暗闇の中で音を奏でていた。
恐る恐る近づいて観察すると、やはりゼンマイは微動だにしていないのに、内部のシリンダーだけが目に見えない力でゆっくりと逆回転している。その音はじっとりとした不快感を伴っていた。
それからどうしたのかは記憶にない。翌朝、目が覚めるとオルゴールは静まり返っていた。夜中に動いていたような形跡はない。
「なんだ。夢だったのか」
それでもなんとなく気味が悪くなってしまい、僕はその日のゴミ出しのとき、オルゴールを頑丈な黒いゴミ袋に入れて集積所に捨てた。
すっきりしたと思い、その夜は早めにベッドに入って目を閉じた。
しかし、深夜、またしてもあの歪んだ不協和音が、静まり返った寝室に響き渡った。
心臓が激しく脈打ち、冷や汗が全身から噴き出すのを感じながら、僕はゆっくりと目を開けた。
音は、机の上から聞こえていた。
そこには、僕が今朝捨てたはずのオルゴールが昨夜と同じように置かれている。
床には捨てる際に入れた黒いゴミ袋が落ちている。そのゴミ袋の側面は、まるで内側から鋭い爪で引き裂かれたかのように、無残に大きく破られていた。
さらにオルゴールの音色は昨夜よりも明らかにテンポが速くなり、音自体も高く鋭くなっていた。
その音に呼応するように、部屋の隅にあるクローゼットの扉が、ギギギと音を立てて勝手に開いた。
暗い隙間から、青白い、人間のものとは思えないほど細長い指がはみ出していた。
僕は恐怖のあまり悲鳴を上げることもできず、ただ布団を頭からかぶってガタガタと震え続けることしかできなかった。
翌朝、オルゴールはそこにはなかった。引き裂かれたゴミ袋も存在しない。クローゼットもきちんと閉まっていた。
「また夢か……」
あまりにも気味が悪かった。
三日目の夜、僕は部屋の明かりをすべて点けたままベッドに入った。
しかし、やはりオルゴールの音は聞こえてきた。しかも、今までで最も激しく、狂ったような旋律を奏で始めたのだ。
もはやそれは音楽ではなく、頭の中を侵食するようなおぞましい音にしか聞こえなかった。
再びクローゼットの扉が少しずつ開き、中から全身の関節が異常な方向に折れ曲がった、人のように見えるものが這い出てきた。
「それ」は、オルゴールのテンポに合わせて、カチカチと関節を鳴らしながら、僕の方へと確実に近づいてくる。
逃げようとしても、身体が金縛りにあったかのように全く動かない。
ふと、僕は机の上のオルゴールに目を奪われた。
錆びついたゼンマイは、やはり一ミリも回っていない。
しかし、よく見ると、部屋の中を這い回る「それ」の首が、オルゴールのシリンダーの回転と完全に連動して、ギチギチと真後ろまで回転していた。
「それ」が僕の真横に到達した時、オルゴールの曲は、いよいよ耐え難いような異音を発した。
ガチリ、と部屋の中に大きな歯車が噛み合うような音が響く。
次の瞬間、僕の視界は、自分の意志とは無関係に、真後ろに向かって回転し始めた。


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