ぞわっとする

ちいさな物語

#595 夜をつかまえた

なあ、信じてくれるか分からないけど、俺、「夜」を飼ってたことがあるんだ。いや、比喩じゃなくて文字通りの意味でさ。あの日、まだ空が白み始めたばかりの午前五時くらいだったかな。散歩に出ようとしたら、マンションの植え込みの下に、なんだか黒くてキラ...
ちいさな物語

#594 守護の手つきが荒すぎる

霊が見えるという知り合いの真田、ある日いきなり顔をしかめられた。「うわぁ」第一声がそれは失礼だろうと思ったが、真田は俺の肩のあたりを見たまま、動画視聴中に超絶長い広告が入ったような顔をして見ている。「ずいぶんと強い守護霊が……ついてますね」...
ちいさな物語

#591 時喰らいの呪い

王都に最初の春の風が吹き抜けた日、凶暴な「時喰らい」の首を馬上に下げた騎士団長アルドが黒鉄の門をくぐって帰還した。胸当ては深く裂け、肩には鋭い爪痕が四本、血はまだ乾ききっていない。それでもアルドは手綱を放さず、部下たちに指示をとばしている。...
ちいさな物語

#590 新しい正装

かつて、ネクタイを締め、窮屈なジャケットに身を包んで通勤していた時代があった。今となっては、それは歴史の教科書に載る「非効率な時代の奇習」として片付けられている。在宅勤務が完全に定着した現在、社会の価値観は一変した。「移動時間は無駄」「化粧...
ちいさな物語

#589 町内会の幽霊

その廃屋は、町の北端で静かに朽ち果てていた。かつては「出る」と噂され、夏休みともなれば肝試しに訪れる子供たちの絶叫が響いたものだが、それも今は昔の話だ。最近の子供たちはスマートフォンの画面に夢中で、埃っぽい古い家屋を探索するよりも、仮想空間...
ちいさな物語

#587 誘人木

去年の秋のことだ。引っ越してきたばかりの一軒家の庭に、見慣れない木が一本立っていた。不動産屋に聞いても「前の住人が植えたんでしょう」と言っただけだった。樹高は2メートルほど。幹は妙にねじれていて、葉は濃い緑なのに光の当たり具合によっては青み...
ちいさな物語

#586 5秒先の未来

駅前の騒がしい居酒屋で、3杯目のハイボールが空いた頃だった。いつも穏やかで、社内でも「仏の斎藤」と慕われる先輩が、グラスの縁をなぞりながら妙なことを言い出した。「実はさ、俺、5秒先が見えるんだよね」酔っ払いの世迷い言だと思った。私は適当に相...
SF

#584 銀河の果ての拾い物

銀嶺114年 4月6日宇宙船の旅は、地上で暮らす人々が夢見るような煌びやかな冒険ではない。少なくとも、貨物運搬船『龍宮号』の操縦席に座っている僕にとってはそうだ。窓の外に広がるのは、どこまでも続く漆黒の闇と、針で突いたような光の粒。初めて宇...
ちいさな物語

#583 風の楽器

その国の西のはずれに、風の鳴る谷と呼ばれる場所がありました。谷は細長く、大地を裂くように伸びていて、底はどれほど目を凝らしても見えません。谷に近づくと、いつも風が吹いています。強い日も、弱い日も、風は必ず音を立て、まるで誰かが笛を吹いている...
ちいさな物語

#580 持ち帰り

私は、ごく普通のサラリーマンだ。特別な才能があるわけでも、霊感があるわけでもない。少なくとも、先月のあの日まではそう信じていた。私の「とある変化」に、何かのきっかけがあったのかどうか、それすらよくわからない。あの日、仕事の都合で、私は地方の...