くすっと笑える

ちいさな物語

#590 新しい正装

かつて、ネクタイを締め、窮屈なジャケットに身を包んで通勤していた時代があった。今となっては、それは歴史の教科書に載る「非効率な時代の奇習」として片付けられている。在宅勤務が完全に定着した現在、社会の価値観は一変した。「移動時間は無駄」「化粧...
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#588 サービスタイム

うちの近所のスーパーは、夕方六時を過ぎると空気が変わる。惣菜コーナー周辺を中心に客の様子が不自然になるのだ。誰もが興味なさそうな顔をしながら、何度も同じ場所をうろうろし始める。全員、似たような軌道を描きながら、回遊魚のごとく店内を回り始める...
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#586 5秒先の未来

駅前の騒がしい居酒屋で、3杯目のハイボールが空いた頃だった。いつも穏やかで、社内でも「仏の斎藤」と慕われる先輩が、グラスの縁をなぞりながら妙なことを言い出した。「実はさ、俺、5秒先が見えるんだよね」酔っ払いの世迷い言だと思った。私は適当に相...
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#582 もちょん

今日も残業を終え、疲れ切った体を引きずってアパートの自室に戻った。ドアを開け、明かりをつける。玄関から一歩入り、ふと部屋の隅にある木製の棚に目を向けたとき、違和感を覚えた。棚の上に、見覚えのないものがある。近づいて確認してみると、それはカピ...
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#581 黄金の圧迫面接

いや、マジで今の時代、人間がペットを選べるなんて思ってる奴は化石ですよ。情報弱者もいいところだ、って言いたくなりますね。動物愛護の法律が一段と厳しくなり、ブリーダーには国家資格が必要になりました。そのうえ、難易度の高いブリーダー試験に合格し...
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#580 持ち帰り

私は、ごく普通のサラリーマンだ。特別な才能があるわけでも、霊感があるわけでもない。少なくとも、先月のあの日まではそう信じていた。私の「とある変化」に、何かのきっかけがあったのかどうか、それすらよくわからない。あの日、仕事の都合で、私は地方の...
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#578 大「代行」時代

いやもう、マジで現代社会の効率化ってのはどこまで行っちゃうんですかね?皆さんもご存知でしょう、数年前に流行った退職代行。そのとき僕はまだ笑っていました。いやまあ、気まずいもんな、とは思ったわけです。上司に「辞めます」と言うの、胃がきゅっとし...
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#574 釣れるもの

買い物の帰りに、私は町はずれのため池でしゃがみこんでいる子供たちを見つけた。細い竹の枝に糸を結び、先にはおそらくスルメでもつけているのだろう。懐かしい。ザリガニ釣りに違いない。けれど、いちばん端の男の子が引き上げたものを見て、私は足を止めた...
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#571 榊原さんへの伝言

その日のオフィスは、まるで戦場だった。鳴り止まない電話、飛び交う怒号、そしてなぜか誰かが持ち込んだであろう「たこ焼き」のソースの香りが充満し、脳が正常な判断を放棄し始めていた。私、佐藤は、締め切り直前の資料作成に追われながら、営業部のエース...
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#570 落日の後悔

その町を訪れた友人の佐藤は、商店街の不自然なほどの「静寂」に違和感を覚えたようだった。「なぁ、何食べたい? 実は料理得意だからな」私は肉屋で豚こま肉を包んでもらいながら声をかけた。時刻は午後四時五十九分。商店街の店主たちはすでにシャッターを...