すきま時間に

ちいさな物語

#612 地獄のゆりかご

地獄を見ることができるツアーがあるという、奇妙な噂を耳にした。普通の旅行代理店で行けるはずもなく、私は人脈を駆使してある男にたどり着いた。地獄観光ツアーは紹介制で、その参加枠を持っていたのは、臨死体験が豊富だというAさんだった。何度も死にか...
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#611 パチンコ店の怪

今から十年ほど前の話だ。俺は郊外のパチンコ店でバイトをしていたんだ。あんた、知ってるかな。国道の脇の「ゴールデンラッキー」って店だ。まだあるかわからないけどな。当時はまだ現在とは違い、玉が筐体から外に出る仕様だった。だからパチンコ屋のバイト...
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#610 黄金の鱗の竜

なあ、お前、あの山がどうして呪いの山になったのか知っているかい?今はただの荒れ果てた山だが、昔はあそこに見事な黄金の鱗を持つ竜が住んでいたんだよ。山もとても豊かでね。その頃はこの村もとても豊かな村だった。秋はたくさんの実りがあり、井戸の水も...
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609 三人称の侵略

鈴木が目を覚ますと、見慣れたはずの天井の染みがいつもより奇妙に黒く歪んで見えた。「彼は重い体をゆっくりと起こし、昨日からの疲労を引きずりながら深いため息をついた」誰もいないはずの部屋の中に、落ち着いた低い男性の声が突然響き渡った。鈴木は驚い...
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#595 夜をつかまえた

なあ、信じてくれるか分からないけど、俺、「夜」を飼ってたことがあるんだ。いや、比喩じゃなくて文字通りの意味でさ。あの日、まだ空が白み始めたばかりの午前五時くらいだったかな。散歩に出ようとしたら、マンションの植え込みの下に、なんだか黒くてキラ...
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#553 甘い行列

バレンタインを目前にしたある日、俺は百貨店の前にいた。目的は単純で、テレビの特番で取り上げられているような、凝ったバレンタインチョコレートをちょっと試しに買ってみようくらいのものだった。値段も高く、行列に並ぶ必要があることは事前に確認済みだ...
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#552 吠えられる理由

隣の家の犬は、俺を見ると必ず吠える。朝でも、夜でも、距離があっても関係ない。門の前を通るだけで、低く、しかし確信に満ちた声で吠える。他の人にはそうでもない。子どもには尻尾を振り、配達員には警戒の目を向けつつ黙っている。俺にだけ明確な敵意を向...
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#550 知育菓子への耐性

最初に違和感を覚えたのは、知育菓子なのに硬すぎたことだった。説明書には「やさしく噛みましょう」と書いてあるのに、歯が折れそうなほど硬い素材だ。それでも俺は説明書通り、真剣に菓子を作成した。完成したそれは、どう見ても食べ物ではなく、さるぐつわ...
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#546 非常階段と住民たち

地震が来たのは、夜の十時を少し回った頃だった。遅くなのにエレベーターには数人が乗り合わせていた。最初は、いつもの小さな揺れだと思った。日本は地震が多い。だが、揺れが不穏に続く。「これは大きいぞ」と、誰かがつぶやいたとき、エレベーターが停止し...
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#513 深夜二時の動画

夜中の二時、眠れなくて動画サイトをだらだら眺めていたんだ。その時、妙に古びたサムネイルが目に入った。「絶対に見てはいけない映像」こういう大袈裟なのは大抵釣りだろうって、軽い気持ちで再生したんだよ。映像は暗く、ノイズだらけだった。廃屋みたいな...