すきま時間に

ちいさな物語

#512 うさぎ道の迷い子

村の外れに「うさぎ道」と呼ばれる地下通路があってね、昔から大人たちは「あそこには入るな」と言っていたんだよ。土の匂いがして、ひんやりとした風が流れていてね、子どもにはたまらない秘密の場所だったんだ。その日もカズと仲間たちは探検に出ていた。と...
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#487 絵本の扉をくぐる子どもたち

放課後の図書館は、いつも少し埃っぽい匂いがした。窓から差しこむ夕陽が、木の床をオレンジ色に染める。その日、四人の子どもたちは誰も開けたことのない本棚の前に立っていた。鍵のかかった扉が、なぜか少し開いていたのだ。「ねえ、これ、ずっと閉まってた...
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#473 降りない人

住んでいるマンションのエレベーターで、いつも乗り合わせる人がいる。それは40代くらいの男性で、特に特徴のない普通の格好をしている。私は自分の部屋のある上の階に行くため、エレベーターを下で待っている。すると、上から降りてきたエレベーターにその...
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#459 スクランブル交差点のハイタッチ

聞いてくれ。渋谷スクランブル交差点で、最近とんでもない現象が起きてるんだ。俺が最初に見たのは金曜の夜だった。人混みの中、サラリーマンが突然すれ違いざまに若者とハイタッチしたんだよ。「パァン!」っていい音立ててな。で、二人とも満面の笑み。「え...
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#457 傘に落ちるもの

あれは二年前の秋頃だったと思う。夜勤明けで疲れていた俺は、しとしとと降る雨の中を、傘を差して歩いて帰っていたんだ。最初は、雨音に紛れて気のせいだと思っていたが、上から「ボタッ」という重たい音がした気がした。雨の粒が落ちる音とは違う。柔らかく...
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#456 変わらぬ先生

うちの担任のことを話そうか。ぱっと見は二十代後半、生徒にも人気の若い先生だ。笑顔も明るく、授業もわかりやすい。女子は「イケメン」って騒ぎ、男子も気さくに話せる。まあ、完璧すぎるくらいの先生なんだよ。だけどある日、高齢の先生にぽろっと言われた...
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#451 食玩コレクションの部屋

最初にその食玩を手に取ったのは、コンビニのレジ横でした。小さな箱にカラフルなキャラクター。子ども向けの菓子かと思ったんですが、なぜか大人の僕まで惹きつけられたんです。「全12種類+シークレット1種」おまけのフィギュアは、古風な人形や見知らぬ...
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#450 幻の灯火亭

冒険者ギルドの中では有名な噂があるんだ。「幻の料理屋」ってやつさ。たどり着ける人間だけが味わえる、特別な料理を出す店。信じるやつはほとんどいない。けど、一部の古参冒険者や腕利きの連中が「一度だけ行ったことがある」なんて真顔で語るもんだから、...
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#449 
懐かしい町

「懐かしい町」の話を聞いたことがあるか?地図にもSNSで検索しても出てこない。それなのに口伝で噂は広がっていて、誰かが必ず「ああ、聞いたことある」と頷く。けれど不思議なことに、詳しい情報は誰も語らないんだ。実は俺も、あの町に迷い込んだひとり...
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#448 刺身の旅

あれは、忘れもしない晩酌の夜のことだ。スーパーで買ったパックの刺身を皿に並べて、醤油を用意し、さあ一口……と箸を伸ばした瞬間、声がした。「まだだ。まだ食うな」僕は手を止めた。部屋には僕ひとり。だが声は確かに聞こえた。「ここだ、ここだよ。お前...