日常・現代

ちいさな物語

#118 エビフライ・エクスプロージョン

その日は、朝からもう散々だった。目覚ましは鳴らないし、シャワーのお湯は出ないし、家を飛び出したら豪雨だし、あげく電車は遅延。やっとの思いで会社にたどり着いたら、ちょうどお昼休みが始まっていた。どうせ残業分がたまってたし、フレックスを利用した...
イヤな話

#117 やさしすぎるブラック企業

「世界で一番やさしいブラック企業、か……」ユウマはスマホの画面を見つめながら呟いた。求人サイトで偶然見つけたその会社の募集要項には、こう書かれていた。・未経験歓迎! 学歴不問! やさしく指導します!・24時間365日勤務可能な方歓迎!・休日...
ちいさな物語

#112 宙を泳ぐ魚

古びた食堂のカウンターに座り、俺は旬の焼き魚定食を前にした。魚の種類が季節によって変わる人気の定食だ。脂ののった焼き魚が湯気を立て、芳ばしい香りを漂わせている。箸を持ち、ふっくらしたその身をほぐそうとした、その瞬間だった。魚の体が微かに震え...
ちいさな物語

#110 回る歯車

俺の仕事は単純だった。作業場に入る。機械の前に立つ。決められたタイミングでレバーを引く。それだけだ。俺が引くレバーに連動して、巨大な歯車がゆっくりと回り始める。最初は重たそうに軋むが、やがて安定し、規則正しいリズムを刻む。そして俺は決められ...
ちいさな物語

#108 屋上は海の底

「屋上は海の底だよ」 彼女がそう言ったとき、僕は初めて自分の足元に意識を向けた。空に一番近いはずの場所で、足下に波打つ海の気配を感じるというのは、どこか奇妙な感じがした。僕の住むマンションには、奇妙な噂がある。『深夜0時を過ぎた頃、屋上に行...
ちいさな物語

#106 コンビニ仙人

深夜のコンビニには、時々変な客がいる。大声で独り言を言いながらおでんを選ぶおじさん。棚の前で微動だにせず立ち尽くす女子高生。酔っ払ってATMと口論しているサラリーマン。まあ、深夜のコンビニなんてそんなものだ。でも、あの仙人は、もっとおかしい...
イヤな話

#105 捕食者の微笑み

私がその女を初めて意識したのは、部署内の歓送迎会の席だった。会社でも評判の美人で、常に誰かと笑顔を交わしている。いつも話題の中心にいて、人を気持ちよくさせる言葉選びが得意な彼女。にこやかな唇の端からこぼれ落ちる声は柔らかく、一度聞いたら忘れ...
ちいさな物語

#104 本棚の迷路と本棚の住人

カズキは、ふと目についた古本屋に立ち寄った。「こんなところに本屋なんてあったっけ?」それは駅前の路地裏にひっそりと佇む店だった。木製の看板にはかすれた文字で「迷文堂」と書かれている。店内に足を踏み入れると、微かにインクと紙の匂いが鼻をくすぐ...
ちいさな物語

#102 地下墓地のともしび

地下墓地の奥深く、エリアスは静かに暮らしていた。彼は幽霊だったが、生前の記憶はほとんどなく、ただ「優しくありたい」という思いだけが胸に残っていた。墓地には時折、弔いや祈りのために人間が訪れる。エリアスはそんな彼らの肩にそっと手を添えたり、冷...
ちいさな物語

#098 遠い砂漠の湖の歌

砂漠の夜は静かだった。風が砂丘をなめる音と、ラクダのかすかな鼻息。カリムは焚き火を見つめながら、遠くから聞こえる不思議な音に耳をすませた。それは水音だった。この砂漠に水場はない。旅人なら誰もが知っている。だが、確かに聞こえる。ざぶん、ざぶん...