コメディ

ちいさな物語

#142 ぶさいく犬の幸福論

あの日、ペットショップの片隅で一匹の犬と目が合った。いや、目が合ったというより、あまりにも気になって目が離せなかった。なにせその犬はとびきりブサイクだったのだ。鼻は潰れたように低く、目は変に離れている。耳も両方が変な方向に折れていて、足の長...
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#111 致命的なタイプミス

「このキーボードは、打った言葉を現実にする」店主にそう言われて、俺は半信半疑でその黒いキーボードをながめる。古道具屋にキーボードというのがめずらしくて、俺はそれを手に取っていた。どこにでもある普通のキーボードと変わらない。ただ、モニターにつ...
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#101 チャラ神様のご加護

深夜、人気のない神社の境内。今年こそ、彼女ができますように。鳥居をくぐると、目の前にキラッキラのスーツを着た男がいた。「やっほ~☆ 君、悩みとかあんの?」「……は?」金髪オールバックにサングラス。胸元をはだけさせ、金のネックレスがジャラジャ...
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#092 言い訳の数

「被告人、あなたは万引きの罪で起訴されていますね?」裁判官の問いに、被告の男は堂々と答えた。「いえ、あれは不可抗力でした。」「不可抗力?」「そうです。ちょうどその日、私のズボンのゴムが緩んでましてね。歩いていたらスルスルっと下がってきたんで...
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#079 乙女ゲーム化した高校生活にモブの俺がツッコミ入れていきますね

「いやいや、ありえないだろ」俺は隣の席で繰り広げられる光景に、思わずツッコミを入れた。ここはごく普通の高校。そしてこの物語のヒロイン——橘ひまりは、決して”かわいい”タイプではない。見た目は普通、性格はどちらかというと生意気。気分屋の猫みた...
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#071 見たことがある

「もう逃げ場はないぞ!」暗闇にそびえる崖の上、刑事・田村は拳銃を構えて叫んだ。その先に立つのは、指名手配中の銀行強盗犯・柴田。汗だくの顔を歪ませ、肩で息をしながら後ずさる。しかし、もう後ろは崖。ここからの逃亡は不可能だ。「くっ……」柴田は崖...
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#060 無職! 桃太郎、行きます!!

「桃太郎になってくれませんか?」知らない男に、いきなりそう頼まれたのは、俺が会社をクビになり、ヤケ酒をあおっていた夜のことだった。「は?」「いや、だから。鬼を退治してほしいんです。報酬は……1000万円でどうでしょう」1000万か……。悪く...
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#059 チョコと手錠

いや、あのね、聞いてほしいんだけど——こんなの、普通ないでしょ!?バレンタインだったのよ。女子としては一世一代の大勝負の日なわけ。――で、その前に私、人生で初めて一目惚れしたの。駅でさ、偶然見かけたイケメン。長身で、黒髪がさらっとしてて、ス...
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#037 焼けないケーキ

俺の名前は翔太。普通の会社員だったが、ある日思いつきでYouTubeを始めた。「素人がケーキを焼く」という企画だ。料理経験ゼロの俺が悪戦苦闘する様子がウケるんじゃないか、と思ったわけだ。最初の動画は、予想以上にひどかった。卵を割ろうとしたら...
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#035 大統領たちの戦場

人類はようやく「戦争」という概念を進化させた。それは命を奪う血なまぐさい戦場ではなく、世界中のゲーマーが戦場となる仮想空間で戦う「デジタルウォー」だった。勝敗によって国同士の領土や資源が動く仕組みで、リアルの犠牲者はゼロ。だが、それが平和と...