日常・現代

イヤな話

#537 幸福の抜け殻

隣の芝生は青い、という言葉がある。だが、私の家の隣にある芝生は、青いどころか発光しているんじゃないかと思うほどに眩しかった。数年前に越してきた工藤家のことだ。旦那さんは大手商社勤務で、毎朝爽やかな笑顔でジョギングを欠かさない。奥さんは料理上...
ちいさな物語

#531 恐れるべきもの

幼いころから幽霊が見えると言うと、人は決まって「え、怖くないの?」と聞いてくる。正直、怖いというか――意味がわからない。そもそも本当に幽霊と呼んでいいものなのかもよくわからない。元は生きていた人間という証明がどこにもないし、その「幽霊」自身...
ちいさな物語

#524 きのこ侵略

森の入り口に、見たこともない色のきのこが生えていた。そのことには意外と多くの人が気づいていたが、それが胞子を吐き出し始めた瞬間から、すべてが狂い始めたのだった。はじめは地元ニュースでのんきに「珍しいきのこです!」なんて報道していたが、翌週に...
ちいさな物語

#521 山賊と肩甲骨と納豆

あの日、山に入ったのはほんの気まぐれだった。ちょっと散歩、くらいのものだ。秋の終わりで、木々は赤く、風がやけに澄んでいた。弁当の包みには、祖母が持たせてくれた小さな納豆の包みが入っていた。「山で食う納豆はうまいぞ」と祖母は笑っていた。とりあ...
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#520 祝祭のティールーム

そのティールームに入ったのは偶然でした。会社帰り、雨に追われるようにして駅前の裏道へ入り、古いレンガの隙間から漏れる明かりに引き寄せられたんです。木製の小さな看板には「景色が見えるお茶のお店」と書かれていました。その意味がわからないまま扉を...
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#518 浮かんだ数字

いや、これは本当にあった話なんだ。冗談に聞こえるかもしれないけれど、今でも思い出すと背筋が冷える。最初にそれに気づいたのは、会社帰りのコンビニ前だった。コンビニから出てくる人の頭の上に、数字が浮かんでいたんだよ。薄く揺れる赤い光の「23」と...
ちいさな物語

#517 黄金の配合

古い家を相続したのは三か月前だった。祖母の家で、子供のころに何度も遊びに来ていたはずなのに、妙に記憶と違っていた。思っていたより大きくない。天井が低い。台所の窓から見える庭も小さく見えた。要するに自分の体の方が大きくなったのだ。祖母とは電話...
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#516 止まった街と時計店

タクマがその店の前を通りかかったのは、深夜一時をすぎた頃だった。飲み会の後、終電を逃し、歩き疲れて、とりあえず足を休めようとしたときだ。ふと視界の端で、時計店のショーウィンドウが光った。正確には、光っている気がした。実際にはネオンサインがぼ...
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#514 午後三時のカラスたち

午後三時、町のスピーカーがいつものチャイムを鳴らすと、カラスたちが電線から一斉に飛びおりた。彼らは咳払いをして、黒い嘴をそろえて前へならえをした。そして音もなく行進を始めた。誰も理由を知らなかったが、誰もがぼんやりとそれを眺めていた。人々は...
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#512 うさぎ道の迷い子

村の外れに「うさぎ道」と呼ばれる地下通路があってね、昔から大人たちは「あそこには入るな」と言っていたんだよ。土の匂いがして、ひんやりとした風が流れていてね、子どもにはたまらない秘密の場所だったんだ。その日もカズと仲間たちは探検に出ていた。と...