日常・現代

ちいさな物語

#413 無限教室

とある大学。文学部、日本文学科、口承文芸ゼミ准教授、相良は研究室のゼミ学生数名を連れて、ある廃校に足を踏み入れた。コンクリートの壁は黒ずみ、窓は割れ、風が吹き込むたびにカーテンの残骸がばさばさと揺れる。入口の看板には「○○市立第三中学校」と...
ちいさな物語

#412 値上げの向こう側

「また値上げかよ……」スーパーのカゴに商品を入れるたび、俺の溜息は深くなる。仕事帰り、夜7時過ぎ。自動ドアが「ピンポーン」と鳴ると、これから見るであろう値札を想像し、もうそれだけで気が重い。スーツ姿のままカゴを手に取り、いつものルートを歩く...
ちいさな物語

#411 レシート除霊師

「また拾ってる……」最初に見かけたのは、駅前のコンビニの前だった。スーツ姿の男が地面に落ちたレシートを、ひとつひとつ丁寧に拾い集めていたんだ。俺は最初、ただの奇行にしか思えなかった。もしくは何かしらの信念でゴミ拾いをしたい人なのか、くらいで...
イヤな話

#409 割り勘モンスター

聞いてくれよ。俺が前の会社にいた頃の話だ。飲み会がな、とにかく気が重くて仕方がなかった。理由はひとつ――経理課の鈴木先輩がいるからだ。あの人、酒も食い物も底なしでな。いわゆる食い尽くし系。乾杯するやいなや「ビール10杯! 串盛りも大盛りで!...
ちいさな物語

#406 ホラー道場深夜の稽古

真夜中の二時。布団の中で動画を眺めていた俺の前に、唐突にそれは現れた。白い服、長い黒髪。いかにも幽霊という見た目だ。だが、問題は「演技」だった。「う、うら……め……しやぁ……」語尾が上ずり、間の取り方も悪い。足はしっかり床についており、ただ...
ちいさな物語

#405 福龍軒の秘密

福龍軒は、駅から少し外れた路地裏にある。古びた赤い看板、かすれた漢字、灯りの弱い裸電球。初めての人には少し不気味に映るかもしれないが、地元では「隠れた名店」として評判だ。辺鄙な場所なのに客足が途絶えることがない。店主の張さんは寡黙な人物で、...
ちいさな物語

#401 秘密戦隊父と母

押入れの掃除なんて、正直気が進まなかった。古い布団やら黄ばんだ雑誌やら、どうせガラクタばかりで大変なのは目に見えていた。ただ、捨てられない大量のマンガ本をしまう場所がほしいと言ったら、押入れを片付けたら、空いたスペースを使っていいと言われた...
ちいさな物語

#399 安定の三角形

恋の三角関係。誰もが一度は耳にする、恋愛の泥沼ワード。でも俺が体験したのは、複雑すぎてドラマにも漫画にもできない代物だった。まず登場人物を整理しよう。俺、タカシ、幼馴染のユウジ、そして転校生のミカ。この三人で三角関係――まあ普通に聞けば「青...
ちいさな物語

#397 観覧車と物語

あれは夏の終わりだったな。辺鄙なところに小さな遊園地を見つけたんだ。こんなところに遊園地があるなんて知らなかった。しかも夜まで営業しているなんて変わっている。その遊園地に入ってしまったのは偶然で、導かれるように閉園間際の観覧車に乗ったんだ。...
ちいさな物語

#394 月影の庵

山には不思議な話がつきものでございます。中でも「月影の庵」の噂は、古くから村人たちの口の端に上り、子や孫へと語り継がれてまいりました。ある夜のこと。若い猟師の庄五郎が山で道に迷ったそうです。谷を越え、崖をよじ登るうちに日はすっかり落ち、辺り...