ファンタジー

ちいさな物語

#391 宝石の森

森の奥深く、人の足がほとんど入らぬ場所に、奇妙な噂がある。木々の葉も枝も幹も、すべてが宝石でできた森があるというのだ。宝石の森――そう呼ばれていた。 それは、かつて旅の商人から聞いた話だった。最初は笑い飛ばした。宝石の森などあるものかと。だ...
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#380 あざらしからの残暑見舞い

今年の夏はやけに暑かった。八月の終わりになっても、蝉の声は止まず、夜になってもまとわりつくような湿気が抜けない。僕の住むアパートの郵便受けには、町内会の回覧板や広告しか入らないのが普通だ。だけど、あの日は違った。ポストを開けると、見慣れない...
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#377 霧の街のリィド

霧の街〈リュミエール〉は、今日も灰色に沈んでいた。低く垂れ込めた雲の下、石畳は夜明け前の雨を吸い込み、鈍く光っている。人々は足早に通りを行き交い、影のように家々へ消えていった。そんな中、一人だけ異彩を放つ姿があった。銀色の髪を短く刈り、深い...
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#369 影喰いの剣

「何か用か? そっちで寝てろよ」レオが焚き火のそばで寝転がりながら、面倒くさそうにぼやいた。俺は苦笑して、その隣に腰を下ろす。「悪いか? お前の相棒の俺がいないと寂しいだろう?」いつものやり取りだ。俺たちが初めて出会ったのは、もう何年も前の...
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#362 迷宮の宝

迷宮の奥へ進むたび、空気が冷え込み、静寂が耳を刺す。だが私は剣を握りしめ、歩を止めなかった。いまさら引き返すことなどできない。目指すは、どんな病をも癒やすという伝説の宝――。病みついた妹のために絶対に必要なものだった。三日前、村の酒場で老騎...
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#360 泥だらけの勇者

それは雨上がりの午後のことだった。村外れの道を歩いていると、急に前方の草むらからガサガサという音がして、泥だらけの男が現れた。ぼさぼさの髪、傷だらけで泥まみれの鎧、背中にはいかにも立派な剣。見た目はどう見ても冒険者……いや、それ以上の存在感...
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353 魔法少女(35)

「もう25年かぁ……」鏡の前でぼんやりと呟きながら、私はふと自分の顔を見た。10歳で魔法少女としてデビューして以来、悪の組織から地球を守るために必死に戦い続けてきたけど、気がつけば35歳。「少女」という言葉に明らかに無理を感じられる年齢に差...
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#350 今日も勇者が現れない

「魔王が復活したのに、勇者が見つからない」国王が溜息混じりに告げる言葉に、魔法使いである俺は思わず頭を抱えた。いや、それにしたって、なんで俺が行く流れになってるんだ?「申し訳ない、セオドア殿。しかし、頼めるのはそなたしかおらぬ」国王は苦々し...
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#340 正しい歴史

「じゃあ、このページを開いて。今日は江戸時代の終わりから明治時代の始まりについて勉強するぞ」歴史の授業。いつもと変わらぬ風景のはずだった。俺は教科書を開き、指定されたページを見た。——そこで、目が止まった。『江戸幕府は宇宙進出を試みたが、技...
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#332 桜憑き

満開の桜並木をぼんやりと眺めていた。風に吹かれ、花びらがひらひらと舞う姿が美しい。「綺麗だな……」呟きながら目を細めていたら、強い風が吹きつけてきて、思わず目を閉じた。次の瞬間、奇妙な感覚に襲われた。体が軽く、小さくなったような気がする。ゆ...