ほっこり

ちいさな物語

#222 空間のひずみに落ちた人たち

「ここは空間のひずみに落ちた人たちが、とりあえず集まる場所です」目を覚ましたとき、私は灰色の部屋のソファに座っていた。目の前に座る男性が穏やかな口調で告げた。彼は上品なスーツを着て、眼鏡越しの瞳は優しく輝いている。「空間のひずみ……って?」...
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#216 あの角を曲がると、自販機がある

その自販機は、決まって夜中の二時過ぎにしか現れない。駅から少し離れた住宅街の裏路地。昼間に歩いても、そこに自販機などない。ただのブロック塀と、ゴミ集積所と、草の伸びた空き地があるだけだ。だが、ある夜、私は残業帰りにその道を通った。ふと、曲が...
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#211 名探偵の探しもの

探偵・御堂零士みどうれいじと初めて会ったのは、僕が働くカフェ「雨宿り」でのことだった。その日も静かな午後だった。雨が降り出したので、僕は表の看板を引っ込めようとしていた。そこに、濡れたトレンチコートを着た男がふらりと現れた。「温かい紅茶を」...
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#201 新しい選択

「消える」という選択肢が生まれて、もう十年が経つ。それは革命だった。誰にも迷惑をかけず、自分の存在をそっとこの世界から取り除くことができる。特許技術は《ゼロ・プロトコル》と呼ばれ、政府も企業もこぞって推奨した。いわゆる「無敵の人」による事故...
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#200 チワワのいる部屋

「本当に、この家賃でいいんですか?」僕が何度目かの確認をすると、不動産屋の男性はやや面倒くさそうに頷いた。「はいはい。告知事項ありってだけで、リノベーションしてるから中はきれいだし、立地もいいでしょ」見た瞬間、即決だった。駅徒歩三分、2DK...
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#198 冒険者と一匹の猫

レオンは剣を抜きながら、ダンジョンの奥へと慎重に進んでいた。「この先に、財宝が眠っているはず……」古びた地図を頼りに、彼はこの未踏のダンジョンに挑んでいた。だが、進むほどに違和感が募る。罠は発動せず、魔物も一切姿を見せない。まるで、何かに導...
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#197 逆さまの雪

その町では、雪は降るのではなく、地面から空へ昇っていく。一片ごとに、誰かの願いを抱いて——。
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#193 散歩の達人

僕の夢はシンプルだった。何か一つの道を極めること。今、目指しているのは散歩の達人。人間の散歩、犬の散歩、どんな散歩でも完璧にこなしたかった。ある日、究極の散歩道があると噂される森を訪れた。入り口には『あらゆる散歩者を歓迎する』という心躍る看...
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#192 手袋、怒りの暴走

冬の公園のベンチに、ぽつんと落ちていた赤い手袋。それは右手だけのさみしい存在だった。「ご主人はきっとすぐに戻ってくる!」片手袋は前向きだった。だが、一日経ち、二日経ち、ついには一週間経っても、彼女の持ち主は姿を見せなかった。通りかかった老婦...
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#190 掛け軸の中から

祖父が亡くなり、古い家を整理していると一幅の掛け軸が出てきた。
墨で描かれた山水画。穏やかな山々と静かな川の流れが広がり、遠くには霞がかかっている。なかなか見事で美しい軸だった。しかし、その掛け軸を掛けて以来、夜になるとどこからか水の音が聞...