じんとくる

ちいさな物語

#470 師匠と歩いた五日間

「師匠、さっきも休憩しましたよね?」「うん、したね。でも、また休憩したくなったんだ」いつも通りの返答だった。私は深くため息をついた。私の師匠、フェルディナント・エイグルは、王都でも名の知れた魔法使いだ。いや、一応はそう呼ばれているが、実際は...
ちいさな物語

#465 あぜ道にいるもの

あれは、三年前の秋だった。その日は仕事帰りで、少し遠回りをして歩いていた。空気がひんやりして、稲穂の匂いが夜風に混じっていた。最寄り駅から自宅までの田んぼの間を抜ける道を歩いていたとき、視界の端にふわりと光るものが見えたんだ。最初はこんな季...
ちいさな物語

#462 宇宙人たちの侵略会議

あれは、数年前のことだ。正直、信じてもらえるとは思っていない。けれど、僕はあの日、本当に「宇宙人の侵略会議」を聞いてしまったんだ。その晩、僕は会社の帰り道、公園のベンチに腰を下ろしてコンビニで買ったコーラを飲んでいた。一人でこうやってくつろ...
ちいさな物語

#454 超能力探偵の秘密

僕は名探偵の助手をしている。名前は伏せるけど、うちの探偵は業界でもそこそこ名が知られていて、依頼が絶えない。新聞やテレビにも取り上げられるくらいだから、まあ世間的には「名探偵様」ってことになってる。確かに頭はいい。知識量も豊富だし、観察眼も...
ちいさな物語

#448 刺身の旅

あれは、忘れもしない晩酌の夜のことだ。スーパーで買ったパックの刺身を皿に並べて、醤油を用意し、さあ一口……と箸を伸ばした瞬間、声がした。「まだだ。まだ食うな」僕は手を止めた。部屋には僕ひとり。だが声は確かに聞こえた。「ここだ、ここだよ。お前...
ちいさな物語

#442 異世界ニートの変わらぬ日々

あのとき確かに僕は死んだんです。過労死とかじゃなく、ただ家の階段を踏み外して頭を打った。ニュースにもならないような凡庸な死に方でした。そして気づけば光の中にいて、「あなたを異世界に転生させます」という声を聞いたんです。「よし来た!ついに僕の...
ちいさな物語

#434 川の大橋ものがたり

むかしむかし、とある里に大きな川が流れておった。その川は流れも早く、雨が降ればすぐに氾濫して、里の人々はたびたび困らされていた。とりわけ川を渡るのが大変でな、舟を使えば流され、泳げば命を落とす。里と里とをつなぐ道はその川でぷつりと途切れてお...
ちいさな物語

#424 立会人

立会人という人を、あなたは聞いたことがあるだろうか。それは奇妙な仕事をする人だ。特別何かをするわけではない。ただ立ち会う。受験の合格発表を見に行くとき、初めて入る店の敷居をまたぐとき、夫婦喧嘩や遺産相続の話し合いにすら。彼はただそこにいて、...
SF

#422 人類最後の観察日記

【9月14日】九月も半ばだというのに真夏みたいな暑さだ。夕立の後、川沿いを歩いていたら、奇妙な光を放つ石のようなものを見つけた。拾い上げると、石ではなく卵らしかった。手のひらよりも少し大きく、青白く脈打つように光っている。湿った空気と蝉の声...
ちいさな物語

#402 戦場の絵の具

少年がそれを拾ったのは、戦場の外れだった。瓦礫と灰に覆われた大地の隅、泥に半分埋もれるようにして転がっていた古びた木箱。蓋を開けると、中には色あせた絵の具が並んでいた。赤、青、緑、黒。ただそれだけ。しかし、どの色も普通の絵の具とは違う、奇妙...