じんとくる

ちいさな物語

#402 戦場の絵の具

少年がそれを拾ったのは、戦場の外れだった。瓦礫と灰に覆われた大地の隅、泥に半分埋もれるようにして転がっていた古びた木箱。蓋を開けると、中には色あせた絵の具が並んでいた。赤、青、緑、黒。ただそれだけ。しかし、どの色も普通の絵の具とは違う、奇妙...
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#397 観覧車と物語

あれは夏の終わりだったな。辺鄙なところに小さな遊園地を見つけたんだ。こんなところに遊園地があるなんて知らなかった。しかも夜まで営業しているなんて変わっている。その遊園地に入ってしまったのは偶然で、導かれるように閉園間際の観覧車に乗ったんだ。...
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#395 とある記者の取材記録

俺は記者だ。剣士でも魔術師でもなく、ただペンを取り文章を書くことを生業にしている。要するに「事実を取材し、人々に伝える」のが仕事だ。勇者のように剣を振るう気もなければ、王に仕える気もない。俺が欲しいのは、ただ「よい記事のネタ」だけだ。今回の...
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#394 月影の庵

山には不思議な話がつきものでございます。中でも「月影の庵」の噂は、古くから村人たちの口の端に上り、子や孫へと語り継がれてまいりました。ある夜のこと。若い猟師の庄五郎が山で道に迷ったそうです。谷を越え、崖をよじ登るうちに日はすっかり落ち、辺り...
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#388 最後の盆踊りの夜に

これから話すのは、ほんの少し昔、僕が小学五年生だった夏休みの最後の夜の出来事なんだ。田舎の小さな村だから、毎年盆踊り大会が開かれるんだけど、今年もその日がやってきた。夏休みの終わりに合わせて行われるから、僕ら子供にとっては夏のフィナーレだ。...
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#385 日記に書いた昨日

なんでこんな状態になっているかって? とりあえず話を聞いてよ。俺さ、昔から日記をつける習慣があったんだよ。――といっても、几帳面な性格とかそういうんじゃなくて、単純に数年後とかに見たらおもしろいし、備忘録になるかな、くらいの感覚なんだ。夜寝...
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#383 画鋲の町

僕の机の引き出しには、小さな箱に入った銀色の画鋲がある。文房具屋で買ったときは50個入りで、使い切ることなんて一生ないと思っていた。何しろ壁に画鋲でとめるものなんてそんなにない。お母さんからは壁に穴だらけになっちゃうからあまりたくさんは使わ...
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#379 虚無ガチ勢の夏

「ガチ勢」って言葉、最近よく聞くだろう?どんな趣味でも、必ずガチな人がいる。釣りガチ勢、アイドル追っかけガチ勢、猫吸いガチ勢、断捨離ガチ勢。だが、僕の隣に住んでいたあの人は一味違った。「俺は虚無ガチ勢だ」と堂々と名乗るその男、村瀬さん。最初...
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#378 走馬灯の編集はじめました

正直に言うと、自分が死ぬのがあんなにあっけないとは思わなかった。朝、餅を食べながらスマホで面白動画を見ていて、思いっきり笑った瞬間、餅が喉に詰まってそのまま──という間抜けな最期だった。さすが日本で最も人を殺している食べ物だ。まだそこそこ若...
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#374 花火大会の奇談

もしよかったら、ちょっとだけ私の話を聞いてくれませんか。あの夜、今でも夢か現実か分からないくらい、不思議で忘れられない出来事だったんです。もう何年も前の夏、私は2歳になったばかりの息子を連れて、市の花火大会へ出かけました。夫は数年前に事故で...