くすっと笑える

ちいさな物語

#125 剛毛の生えてくる道

俺が毎日通る道には誰も通らない細い裏道がある。表通りを歩けばいいのに、わざわざそこを使うのは、なんとなくその雰囲気が好きだからだった。古びたレンガの壁が両側に立ち並び、湿った匂いが漂う。昼間でも少し薄暗く、まるで時間が止まったような場所。日...
ちいさな物語

#124 右手の暴走

きっかけは、中古屋で買った一本の万年筆だった。アンティーク風で格好良く、気に入って即購入。しかしペンとその蓋をとめるように小さな紙が貼ってある。よく見るとそれは……。「お札?」小さいながらも神社のお札のような模様がびっしりと書き込まれている...
ちいさな物語

#118 エビフライ・エクスプロージョン

その日は、朝からもう散々だった。目覚ましは鳴らないし、シャワーのお湯は出ないし、家を飛び出したら豪雨だし、あげく電車は遅延。やっとの思いで会社にたどり着いたら、ちょうどお昼休みが始まっていた。どうせ残業分がたまってたし、フレックスを利用した...
SF

#114 星のさざ波

――宇宙の果てには、奇妙なものが転がっている。銀河系を越え、まだ名もついていない星雲を渡り歩く旅商人ルカには、そう確信する理由があった。彼の相棒は陽気なアンドロイド、アーロ。表情こそ微妙にぎこちないが、ジョークのタイミングは抜群で、冷めきっ...
ちいさな物語

#111 致命的なタイプミス

「このキーボードは、打った言葉を現実にする」店主にそう言われて、俺は半信半疑でその黒いキーボードをながめる。古道具屋にキーボードというのがめずらしくて、俺はそれを手に取っていた。どこにでもある普通のキーボードと変わらない。ただ、モニターにつ...
ちいさな物語

#110 回る歯車

俺の仕事は単純だった。作業場に入る。機械の前に立つ。決められたタイミングでレバーを引く。それだけだ。俺が引くレバーに連動して、巨大な歯車がゆっくりと回り始める。最初は重たそうに軋むが、やがて安定し、規則正しいリズムを刻む。そして俺は決められ...
ちいさな物語

#109 終演後の笑い声

売れない芸人の吉村は、漫才師として最後のチャンスを掴もうと、地方の古い劇場にやってきた。その劇場は「必ず笑いが取れる」というジンクスで知られていたが、どこか陰気な雰囲気が漂っていた。「どんなネタでも笑いが起こるなんて、ウソだろ」相方の健太が...
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#106 コンビニ仙人

深夜のコンビニには、時々変な客がいる。大声で独り言を言いながらおでんを選ぶおじさん。棚の前で微動だにせず立ち尽くす女子高生。酔っ払ってATMと口論しているサラリーマン。まあ、深夜のコンビニなんてそんなものだ。でも、あの仙人は、もっとおかしい...
ちいさな物語

#103 声を聞いた者

町の外れには、誰も足を踏み入れたがらない古い建物がある。かつては工場だったというが、倒産後は長らく放置され、壁も床も朽ち果て、鉄骨がところどころ剥き出しになっている。噂によれば、廃墟の奥から夜な夜な人の声のようなものが聞こえるらしい。しかし...
ちいさな物語

#101 チャラ神様のご加護

深夜、人気のない神社の境内。今年こそ、彼女ができますように。鳥居をくぐると、目の前にキラッキラのスーツを着た男がいた。「やっほ~☆ 君、悩みとかあんの?」「……は?」金髪オールバックにサングラス。胸元をはだけさせ、金のネックレスがジャラジャ...