考えさせられる

ちいさな物語

#612 地獄のゆりかご

地獄を見ることができるツアーがあるという、奇妙な噂を耳にした。普通の旅行代理店で行けるはずもなく、私は人脈を駆使してある男にたどり着いた。地獄観光ツアーは紹介制で、その参加枠を持っていたのは、臨死体験が豊富だというAさんだった。何度も死にか...
SF

#597 月の病

月面探査船が持ち帰ったのは、輝かしい成果だけではなかった。船長だった男が、最初に見せた異変は、長時間「月を見ている」――それだけのことだった。しかし彼の体内では小さな存在が蠢き、不可逆な変化をもたらしていた。それが、地球全体を静かな絶望へと...
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#590 新しい正装

かつて、ネクタイを締め、窮屈なジャケットに身を包んで通勤していた時代があった。今となっては、それは歴史の教科書に載る「非効率な時代の奇習」として片付けられている。在宅勤務が完全に定着した現在、社会の価値観は一変した。「移動時間は無駄」「化粧...
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#585 月額親友サービス

俺とマコトは親友だ。いや、正確には、親友のサブスクで来てくれたのがマコトだった。月額九千八百円。高いのか安いのか、最初のころはよくわからなかった。でも、「よぅ、調子はどうだ?」と肩を叩いてくれる人間がいるだけで、ほっとする。それに、連絡をく...
SF

#584 銀河の果ての拾い物

銀嶺114年 4月6日宇宙船の旅は、地上で暮らす人々が夢見るような煌びやかな冒険ではない。少なくとも、貨物運搬船『龍宮号』の操縦席に座っている僕にとってはそうだ。窓の外に広がるのは、どこまでも続く漆黒の闇と、針で突いたような光の粒。初めて宇...
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#578 大「代行」時代

いやもう、マジで現代社会の効率化ってのはどこまで行っちゃうんですかね?皆さんもご存知でしょう、数年前に流行った退職代行。そのとき僕はまだ笑っていました。いやまあ、気まずいもんな、とは思ったわけです。上司に「辞めます」と言うの、胃がきゅっとし...
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#568 失せ物国境検問所

なくしたボタンに届いた一通の通知。〈あなたの持ち物は、失せ物の国の入国審査を待っています〉——。
ちいさな物語

#563 夢の途中で

最初に気づいたのは、たぶん2月の終わり頃だったと思う。その日の夢はやけに鮮明だった。それ自体はたまにあることなんだけど、このときはもっとおかしな夢だった。「遅刻だ!」って大慌てで駅の階段を駆け上がっていく。でも改札前で定期が見つからない。泣...
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#552 吠えられる理由

隣の家の犬は、俺を見ると必ず吠える。朝でも、夜でも、距離があっても関係ない。門の前を通るだけで、低く、しかし確信に満ちた声で吠える。他の人にはそうでもない。子どもには尻尾を振り、配達員には警戒の目を向けつつ黙っている。俺にだけ明確な敵意を向...
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#551 告白は戦争だと思っている

まず最初に言っておく。告白はイベントではない。儀式でもないし、雰囲気作りでもない。ましてや「気持ちを伝えるだけ」なんていう、ふわっとした概念では絶対にない。告白とは、準備九割九分、実行一分の情報戦であり、心理戦であり、環境構築ゲーである。俺...