考えさせられる

ちいさな物語

#377 霧の街のリィド

霧の街〈リュミエール〉は、今日も灰色に沈んでいた。低く垂れ込めた雲の下、石畳は夜明け前の雨を吸い込み、鈍く光っている。人々は足早に通りを行き交い、影のように家々へ消えていった。そんな中、一人だけ異彩を放つ姿があった。銀色の髪を短く刈り、深い...
ちいさな物語

#368 執事の長い一日

「お目覚めですか、ご主人様。」そう言ってカーテンを開けた瞬間、私は今日もまた、この屋敷で長い一日が始まるのです。私がこの屋敷で執事として働き始めてから、もう二十年以上が経ちます。最初は若さに任せて何でも完璧にこなそうとしていましたが、すぐに...
ちいさな物語

#362 迷宮の宝

迷宮の奥へ進むたび、空気が冷え込み、静寂が耳を刺す。だが私は剣を握りしめ、歩を止めなかった。いまさら引き返すことなどできない。目指すは、どんな病をも癒やすという伝説の宝――。病みついた妹のために絶対に必要なものだった。三日前、村の酒場で老騎...
SF

#354 氷の奥で眠るもの

その氷層は、南極の無人地帯にひっそりと眠っていた。調査隊が偶然に掘り当てた、地表から深さ約百二十メートルの地下空間。気温は常に氷点下八十度を下回り、人が簡単に足を踏み入れることを許さない場所だった。調査隊のベテランたちは、その地下空間の存在...
ちいさな物語

#347 人類みんな変人化計画

ある朝、世界中のAIが突然嘘をつき始めた。スマホのアシスタントAI、ナビゲーションシステム、チャットボット……。ありとあらゆる人工知能が、口をそろえて奇妙でシュールな嘘を人々に吹き込み始めたのだ。「本日、地球は楕円形になりました。バランスを...
ちいさな物語

#346 扉の向こう側

その扉は、昨日までは確かにそこにあった。学校帰りの路地裏、雑居ビルの影に隠れるようにして、古ぼけたレンガの壁面に場違いなほど鮮やかな緑色の扉が存在していたのだ。「あれ、こんなのあったっけ?」最初にその扉に気づいたのは夏樹だった。夏樹は好奇心...
SF

#334 漫才宇宙船、銀河をゆく

「おいルミナ、宇宙船の操縦AIがこんなにしゃべるの、おかしくないか?」キャプテンの軽口に、AIのルミナがすかさず応じる。「キャプテン、それは私が言いたいセリフですよ。ちゃんと働いてます?」船内に笑いが広がる。宇宙船『スターバースト号』は、キ...
ちいさな物語

#331 隣の子供

新しく引っ越したアパートは、築年数こそ古いが部屋も綺麗で家賃も安かった。駅からも近く、周辺環境も申し分ない。「掘り出し物だな」そう思って喜んでいたのも束の間だった。引っ越して数日後、夜遅く仕事から帰り、ベッドに横たわった時のことだ。隣の部屋...
ちいさな物語

#329 名探偵アリスと見えない助手

名探偵として知られるアリス・サヴォイは、普段の喧騒とは無縁の田舎の一軒家で休日を過ごしていた。事件に追われる日常を忘れるため、彼女は静寂の中に身を置くことを好んだ。だが、この静けさは彼女にとって完全な孤独ではなかった。なぜなら、彼女には「助...
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#326 最後のプレイヤー

「世界を賭けたカードゲームだよ」気がついたとき、僕は見知らぬ部屋にいた。薄暗い天井からぶら下がる裸電球が、テーブルの上に鈍い光を落としている。向かいには三人の男が座っていた。テーブルには古びたカードが並び、そのどれもが長い年月そのもののよう...