寝る前に

ちいさな物語

#397 観覧車と物語

あれは夏の終わりだったな。辺鄙なところに小さな遊園地を見つけたんだ。こんなところに遊園地があるなんて知らなかった。しかも夜まで営業しているなんて変わっている。その遊園地に入ってしまったのは偶然で、導かれるように閉園間際の観覧車に乗ったんだ。...
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#396 あのとき出会った子供

あれはもう何年も前の話になるな。俺がまだ駆け出しの冒険者だった頃、仲間と共に異世界の荒野を旅していたときのことだ。ある街道沿いの村に立ち寄ったとき、ひょっこり顔を出した子供がいた。
年の頃は十歳くらいだろうか。痩せぎすで、けれど目が妙に澄ん...
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#395 とある記者の取材記録

俺は記者だ。剣士でも魔術師でもなく、ただペンを取り文章を書くことを生業にしている。要するに「事実を取材し、人々に伝える」のが仕事だ。勇者のように剣を振るう気もなければ、王に仕える気もない。俺が欲しいのは、ただ「よい記事のネタ」だけだ。今回の...
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#394 月影の庵

山には不思議な話がつきものでございます。中でも「月影の庵」の噂は、古くから村人たちの口の端に上り、子や孫へと語り継がれてまいりました。ある夜のこと。若い猟師の庄五郎が山で道に迷ったそうです。谷を越え、崖をよじ登るうちに日はすっかり落ち、辺り...
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#391 宝石の森

森の奥深く、人の足がほとんど入らぬ場所に、奇妙な噂がある。木々の葉も枝も幹も、すべてが宝石でできた森があるというのだ。宝石の森――そう呼ばれていた。 それは、かつて旅の商人から聞いた話だった。最初は笑い飛ばした。宝石の森などあるものかと。だ...
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#388 最後の盆踊りの夜に

これから話すのは、ほんの少し昔、僕が小学五年生だった夏休みの最後の夜の出来事なんだ。田舎の小さな村だから、毎年盆踊り大会が開かれるんだけど、今年もその日がやってきた。夏休みの終わりに合わせて行われるから、僕ら子供にとっては夏のフィナーレだ。...
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#383 画鋲の町

僕の机の引き出しには、小さな箱に入った銀色の画鋲がある。文房具屋で買ったときは50個入りで、使い切ることなんて一生ないと思っていた。何しろ壁に画鋲でとめるものなんてそんなにない。お母さんからは壁に穴だらけになっちゃうからあまりたくさんは使わ...
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#380 あざらしからの残暑見舞い

今年の夏はやけに暑かった。八月の終わりになっても、蝉の声は止まず、夜になってもまとわりつくような湿気が抜けない。僕の住むアパートの郵便受けには、町内会の回覧板や広告しか入らないのが普通だ。だけど、あの日は違った。ポストを開けると、見慣れない...
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#379 虚無ガチ勢の夏

「ガチ勢」って言葉、最近よく聞くだろう?どんな趣味でも、必ずガチな人がいる。釣りガチ勢、アイドル追っかけガチ勢、猫吸いガチ勢、断捨離ガチ勢。だが、僕の隣に住んでいたあの人は一味違った。「俺は虚無ガチ勢だ」と堂々と名乗るその男、村瀬さん。最初...
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#378 走馬灯の編集はじめました

正直に言うと、自分が死ぬのがあんなにあっけないとは思わなかった。朝、餅を食べながらスマホで面白動画を見ていて、思いっきり笑った瞬間、餅が喉に詰まってそのまま──という間抜けな最期だった。さすが日本で最も人を殺している食べ物だ。まだそこそこ若...