寝る前に

ちいさな物語

#216 あの角を曲がると、自販機がある

その自販機は、決まって夜中の二時過ぎにしか現れない。駅から少し離れた住宅街の裏路地。昼間に歩いても、そこに自販機などない。ただのブロック塀と、ゴミ集積所と、草の伸びた空き地があるだけだ。だが、ある夜、私は残業帰りにその道を通った。ふと、曲が...
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#213 神さまの座布団

これはの、わしのばあちゃんが、そのまたばあちゃんから聞いたという話じゃ。昔々、山のふもとに「木長こなが村」っちゅう、小さな村があったんじゃ。田んぼと畑と、ちょっとした神さまがおるだけの、静かなところじゃった。この村ではな、毎年秋になると「神...
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#211 名探偵の探しもの

探偵・御堂零士みどうれいじと初めて会ったのは、僕が働くカフェ「雨宿り」でのことだった。その日も静かな午後だった。雨が降り出したので、僕は表の看板を引っ込めようとしていた。そこに、濡れたトレンチコートを着た男がふらりと現れた。「温かい紅茶を」...
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#208 約束の庭

午後三時、町外れの公園は、夏の匂いに包まれていた。僕は汗ばむ手のひらでサッカーボールを拾い上げ、適当に芝生に向かって蹴り戻した――つもりだった。乾いた音とともに、ボールは明後日の方向に飛んでゆく。「取ってこいよ!」友達が冗談まじりに叫ぶ。「...
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#207 夢で見た城

最初にその城を見たのは、三夜前の夢の中だった。高い塔、深い堀、月明かりに照らされる石造りの回廊。人影はどこにもなく、静寂だけが城の隅々にまで満ちていた。目が覚めると、城のことが妙にはっきりと記憶に残っていた。夢にしては現実的すぎた。石の冷た...
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#206 スキルチェック相談所

「あなたのスキル、無料で診断します――。」古びた木製看板に書かれた文字を眺めながら、僕はため息をついた。冒険者ギルドの試験を三回連続で落ちた帰り道だ。試験官の表情を思い出すと、胸が苦しくなる。戦士志望だが力は並以下。魔法も苦手。特別なスキル...
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#205 願いを叶える水差し

その水差しは、駅裏の薄暗い古道具屋の棚に、ぽつんと置かれていた。釉薬の剥げた陶器に、幾何学的な模様。ひび割れた注ぎ口が、妙に気になった。「使えるよ。一滴で、なんでも願いが叶う」店主はそれだけ言って微笑んだ。どういう意味なのかよくわからなかっ...
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#201 新しい選択

「消える」という選択肢が生まれて、もう十年が経つ。それは革命だった。誰にも迷惑をかけず、自分の存在をそっとこの世界から取り除くことができる。特許技術は《ゼロ・プロトコル》と呼ばれ、政府も企業もこぞって推奨した。いわゆる「無敵の人」による事故...
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#200 チワワのいる部屋

「本当に、この家賃でいいんですか?」僕が何度目かの確認をすると、不動産屋の男性はやや面倒くさそうに頷いた。「はいはい。告知事項ありってだけで、リノベーションしてるから中はきれいだし、立地もいいでしょ」見た瞬間、即決だった。駅徒歩三分、2DK...
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#198 冒険者と一匹の猫

レオンは剣を抜きながら、ダンジョンの奥へと慎重に進んでいた。「この先に、財宝が眠っているはず……」古びた地図を頼りに、彼はこの未踏のダンジョンに挑んでいた。だが、進むほどに違和感が募る。罠は発動せず、魔物も一切姿を見せない。まるで、何かに導...