寝る前に

ちいさな物語

#098 遠い砂漠の湖の歌

砂漠の夜は静かだった。風が砂丘をなめる音と、ラクダのかすかな鼻息。カリムは焚き火を見つめながら、遠くから聞こえる不思議な音に耳をすませた。それは水音だった。この砂漠に水場はない。旅人なら誰もが知っている。だが、確かに聞こえる。ざぶん、ざぶん...
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#096 温めますか?

コンビニのレジで、店員の山崎がいつものように尋ねた。夜も遅くなると必ずといっていいほど「温め」が必要なお客がやってくる。そして山崎は「温める」のが嫌いではなかった。たまに失敗もするが、最近は相手の様子をちゃんと見ながら温めれば大きなしくじり...
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#094 銀色の親友

俺がそいつと出会ったのは、山道の途中だった。「おい、人間。少し手を貸せ」振り向くと、そこには二足歩行の狼がいた。いや、正確には獣人というやつだろう。狼の頭にたくましい体、しかしその毛並みは不思議なほど滑らかで、銀色に輝いていた。「……しゃべ...
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#093 きみの背中

何度も同じ夢を見るようになったのは、ちょうど一年前のことだった。夢の中で、きみは僕の前を歩いている。白いワンピースの裾が、ふわりと揺れる。「待って」呼びかけても、きみは立ち止まらない。それどころか、少しずつ遠ざかっていく。僕は必死に追いかけ...
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#091 運河をゆく箱

夜の運河は静かだった。黒々とした水面を切り裂くように、小さな舟がゆっくりと進む。船頭は無言で櫂を操り、客はじっと足元の箱を見つめていた。木箱は膝ほどの高さで、ずっしりと重そうだ。縄で厳重に縛られており、持ち主の男はそれを自分の手で舟へと運び...
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#087 祖母のわらび餅

夏になると祖母が手作りのわらび餅を作ってくれた。冷たい井戸水で締めたそれは、ぷるんと透き通り、きなこと黒蜜がたっぷりかかっていた。口に入れると、まるで澄んだ水のかたまりのように清らかな味がする。「おばあちゃんのわらび餅って、なんだか夢みたい...
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#083 廃駅の階段

聞いてくれ、俺はただの階段だ。だけど、俺が見た光景を話したら、きっとお前も興味を持つだろう。この廃駅には、いろんな人間が来るんだ。俺はもう使われなくなった駅の階段。錆びた手すりに苔むした段、それが俺の全てだ。何十年も前に列車が通らなくなって...
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#081 転がってゆく先

俺か? 俺はただの空き缶さ。最初はちゃんとした飲み物だった。工場で作られ、店に並び、人間に買われ、そして——飲まれた。そこまではまあ、よくある話だ。問題はその後だ。飲み終わった俺は、ポイッと道端に投げ捨てられてしまった。ガードレールにぶつか...
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#080 死神の鳥

最初に気づいたのは、駅のホームだった。目の前のサラリーマンの頭に、小さな黒い鳥が止まっていた。カラスのように見えるが、もう少し小さい。それにどこか質感が、違う。まるで影が形を成したような、ふわふわとした不確かな存在だった。周囲の人々は誰も気...
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#079 乙女ゲーム化した高校生活にモブの俺がツッコミ入れていきますね

「いやいや、ありえないだろ」俺は隣の席で繰り広げられる光景に、思わずツッコミを入れた。ここはごく普通の高校。そしてこの物語のヒロイン——橘ひまりは、決して”かわいい”タイプではない。見た目は普通、性格はどちらかというと生意気。気分屋の猫みた...