寝る前に

ちいさな物語

#573 忘れられた場所

王都へ向かうため、私は日暮れの乗合馬車に乗った。地図師ギルドの見習いになったばかりで、胸の中はやる気よりも、失敗して笑われた記憶のほうでいっぱいだ。馬車は古く、扉には消えかけた紋章があり、御者は深く頭巾をかぶって顔を見せない。青いランタンが...
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#572 銀のティースプーン

市の外れにひっそりと佇むその洋館は、明治時代に建てられた実業家の別邸だったという。現在は市の資料館として公開されているが、訪れる人はまばらだ。赤レンガの壁には蔦が絡まり、窓ガラスは当時の手吹きガラス特有の歪みを湛えている。私と友人の結衣は、...
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#568 失せ物国境検問所

なくしたボタンに届いた一通の通知。〈あなたの持ち物は、失せ物の国の入国審査を待っています〉——。
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#566 叶えるお守り

駅から坂を十分ほど上ると、杉木立に囲まれた小さな神社が現れた。鳥居の横の掲示板には、地元の祭りの案内と「清らかな心」という墨書が貼られている。いかにも地域に密着した小さな神社という感じだ。僕の聞いた噂は本当なのだろうか。鳥居をくぐって進むと...
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#565 名探偵アリスの微笑み

霧が深く立ち込める古い洋館の広間で、一人の少女が優雅にティーカップを傾けていた。彼女の名は結城アリス。この界隈では「歩く芸術品」とまで称される美少女探偵だ。ウェーブがかった長い黒髪に、陶器のような白い肌。そして、すべてを見透かすような深い瑠...
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#564 ダンスタウンダンス

最初は「新手のフラッシュモブか?」って思ったんだよ。月曜の朝、駅前。全員がスマホを見ながら歩く、いつもの朝だと思っていた。そこへ突然、パン屋の店員がトングを持ったまま、ヒップホップのステップを刻み始めた。トングをカチカチと鳴らしながら、腰を...
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#562 まずは気軽な散歩から

運動不足を解消しようと思って、僕はスマホに散歩アプリを入れた。歩数を数えて、歩いた距離でレベルが上がり、バッジがもらえる。ただそれだけの、よくある健康系アプリだ。最初の数日は楽しかった。近所の川沿いを歩くと「散歩レベル2」「健康に一歩近づき...
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#561 失恋保険

二十五歳の会社員、佐藤健斗は、公園のベンチで隣に座る同僚の美咲を見つめていた。三年間、ずっと胸に秘めてきた想い。今日こそはそれを言葉にするつもりだった。喉の奥がカラカラに渇き、心臓の音が耳元まで響いている。「あの、美咲さん。ずっと言いたかっ...
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#560 夢の税務署からの呼び出し

最初の呼び出しは、寝落ちしたソファの上だった。目を閉じたはずなのに、俺は蛍光灯の白い光の下に立っている。床は灰色のタイルで、空気は書類と鉛筆の匂いがしていた。正面の看板に、でかでかと「夢税務署」とある。「え?」と声が漏れた。受付の窓口には、...
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#559 時刻表の王子様

私は通勤電車の同じ車両で、半年くらいずっと気になっていた人を眺めていた。背が高くて、コートをきれいに着こなしていて、顔がやたら整っている。スマホじゃなくて、本を読んでいるところもポイントが高い。ページをめくる指まで絵になる。そんな人が毎朝い...