寝る前に

ちいさな物語

#588 サービスタイム

うちの近所のスーパーは、夕方六時を過ぎると空気が変わる。惣菜コーナー周辺を中心に客の様子が不自然になるのだ。誰もが興味なさそうな顔をしながら、何度も同じ場所をうろうろし始める。全員、似たような軌道を描きながら、回遊魚のごとく店内を回り始める...
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#580 持ち帰り

私は、ごく普通のサラリーマンだ。特別な才能があるわけでも、霊感があるわけでもない。少なくとも、先月のあの日まではそう信じていた。私の「とある変化」に、何かのきっかけがあったのかどうか、それすらよくわからない。あの日、仕事の都合で、私は地方の...
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#579 はさまれているもの

市立図書館で働きはじめて三日目、返却ポストの中から、私は一冊の古い短編集を手にしていた。背表紙は日に焼け、表紙もびっくりするほどぼろぼろだ。随分と古い本だなと、パラパラとめくってみた。すると、頁の間から薄い和紙に包まれた麦の穂が一本、はらり...
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#577 意識高い系ねこの哲学

雨の降る土曜日だった。路地裏の段ボール箱にいたのは、震える子猫……ではなく、どこか遠い未来を見据えているかのような眼差しをした一匹のサバトラ猫だった。「ニャア(お前、リソースに余裕はありそうだな。アライアンスを組まないか?)」猫の鳴き声と二...
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#576 雨を飼う

そのペットショップは、路地裏に隠れるように存在していた。看板には「気象標本・動植物取扱店」と掠れた文字で書かれている。気象標本とはなんだろう……私は興味本位で店内に足を踏み入れた。気象標本の例として店主の老婆から手渡されたのは、青白く光る小...
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#573 忘れられた場所

王都へ向かうため、私は日暮れの乗合馬車に乗った。地図師ギルドの見習いになったばかりで、胸の中はやる気よりも、失敗して笑われた記憶のほうでいっぱいだ。馬車は古く、扉には消えかけた紋章があり、御者は深く頭巾をかぶって顔を見せない。青いランタンが...
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#572 銀のティースプーン

市の外れにひっそりと佇むその洋館は、明治時代に建てられた実業家の別邸だったという。現在は市の資料館として公開されているが、訪れる人はまばらだ。赤レンガの壁には蔦が絡まり、窓ガラスは当時の手吹きガラス特有の歪みを湛えている。私と友人の結衣は、...
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#568 失せ物国境検問所

なくしたボタンに届いた一通の通知。〈あなたの持ち物は、失せ物の国の入国審査を待っています〉——。
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#566 叶えるお守り

駅から坂を十分ほど上ると、杉木立に囲まれた小さな神社が現れた。鳥居の横の掲示板には、地元の祭りの案内と「清らかな心」という墨書が貼られている。いかにも地域に密着した小さな神社という感じだ。僕の聞いた噂は本当なのだろうか。鳥居をくぐって進むと...
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#565 名探偵アリスの微笑み

霧が深く立ち込める古い洋館の広間で、一人の少女が優雅にティーカップを傾けていた。彼女の名は結城アリス。この界隈では「歩く芸術品」とまで称される美少女探偵だ。ウェーブがかった長い黒髪に、陶器のような白い肌。そして、すべてを見透かすような深い瑠...