寝る前に

ちいさな物語

#568 失せ物国境検問所

なくしたボタンに届いた一通の通知。〈あなたの持ち物は、失せ物の国の入国審査を待っています〉——。
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#566 叶えるお守り

駅から坂を十分ほど上ると、杉木立に囲まれた小さな神社が現れた。鳥居の横の掲示板には、地元の祭りの案内と「清らかな心」という墨書が貼られている。いかにも地域に密着した小さな神社という感じだ。僕の聞いた噂は本当なのだろうか。鳥居をくぐって進むと...
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#559 時刻表の王子様

私は通勤電車の同じ車両で、半年くらいずっと気になっていた人を眺めていた。背が高くて、コートをきれいに着こなしていて、顔がやたら整っている。スマホじゃなくて、本を読んでいるところもポイントが高い。ページをめくる指まで絵になる。そんな人が毎朝い...
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#557 ワン・タク

ある朝、駅前のロータリーに「本日より犬が運行します」という手書きの立て看板が立っていた。胡散臭い。誰かのいたずらだろうか。そう思って笑った俺の目の前を、馬くらいある巨大な犬が、すました顔で横切っていった。首輪には青いプレートで「空犬」と書か...
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#549 何もできない彼女と僕の旅

僕はだいたい何でもできた。剣も振れるし、魔法も使える。地図を読めば迷わないし、罠も見抜ける。料理も、裁縫も、交渉も、計算も、それなり以上にこなせる。できないことも少しやってみれば、すぐにできるようになった。ところが彼女は違った。剣は持てない...
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#547 足がもつれて魔王城を制圧してしまいました

「あ、やべっ」それが、世界が救われた瞬間に発せられた声だった。場所は深夜の魔王城の最上階、「玉座の間」。魔族の皆様がぐっすりとお休みになられている間に、フローリングのワックスがけを終わらせる。それが、派遣清掃員である僕、テンタの任務だった。...
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#544 時間の箱

俺の友人は、昔から少し変わっていた。いや、正確に言えば「変わった趣味」を持っていた。骨董品でも、昆虫標本でもない。彼が集めていたのは「使われなくなったもの」だった。壊れた目覚まし時計、期限切れの会員証、書きかけで放置された日記。本人いわく「...
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#538 カレンダーの精霊が落とした一日

なあ、ちょっと聞いてくれよ。君は2019年の年末のことを覚えているかい?世界的な感染症の流行? それもそうなんだけど、その陰に隠れて、大規模なシステム障害があったの覚えてないかな。いや、正確には「永遠のクリスマスイブ」だったんだ。君もそうだ...
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#532 世界平和戦記

世界戦争が勃発した――とニュースが流れた。けれどキャスターは妙に穏やかで、画面の隅にはなぜかユーモラスな鳩のマスコットがぴょこぴょこと揺れていた。まるでホームビデオの紹介でもしているような画面だ。『速報です。ついに各国が平和的戦争に突入しま...
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#528 異世界ツアー案内人

あ、どうも。僕は異世界旅行社の添乗員をやってる者です。正式名称は「時空観光案内人」。担当はファンタジー世界。だけどまあ、だいたいの人は「ガイドの人」といったらわかりますかね。仕事の内容?一言で言えば、別世界へ行きたい人たちを連れて、安全(※...