寝る前に

ちいさな物語

#610 黄金の鱗の竜

なあ、お前、あの山がどうして呪いの山になったのか知っているかい?今はただの荒れ果てた山だが、昔はあそこに見事な黄金の鱗を持つ竜が住んでいたんだよ。山もとても豊かでね。その頃はこの村もとても豊かな村だった。秋はたくさんの実りがあり、井戸の水も...
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#608 古道具屋の記憶

陽翔はるとは、自分の手が嫌いだった。物に触れるたび、その物のどうでもいい記憶ばかりが一方的に流れ込んでくるからだ。消しゴムを拾えば、昨日だれの机から転がり落ちたのか見えてくる。駅の手すりを握れば、この手すりに触れたであろう何人もの手のひらが...
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#607 幼馴染が俺を好きらしいがそんなわけがない

「好き」高校二年の秋。放課後の教室で、幼馴染の七瀬が突然そう言った。反射的に後ろを見た。誰もいない。いや待て。こういう時って大抵、どこかに友だちが隠れているんだよ。スマホで撮影していて、俺が調子に乗った途端に「うぇーい!」って出てくるてはず...
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#603 扉職人の理

なあ、あんた。そこにある古びた木の扉を見てくれよ。ただの板切れに見えるかもしれないが、こいつが完成したときには、ここから一歩踏み出すだけで遥か遠くの異国へ行けるようになるんだ。俺はこれを作る扉職人の弟子だ。師匠は、この道では知らない者がいな...
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#602 つまずく理由

夏の気配が混じり始めた午後の日差しを浴びながら、私は駅前の広場にあるベンチに腰を下ろした。手元には、コンビニで買ったばかりの少し甘すぎるカフェオレがある。午前中の会議で削り取られた精神を修復するには、このくらいの糖分がちょうどいい。ふと目を...
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#601 多すぎた祝福

王子の誕生に、二千もの妖精が祝福を授けた。完璧に生まれついた王子に、ただひとつだけ、足りないものがあった。
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#600 桃色の花の国と戦神

昔々、あるところに、それはそれはうつくしい小さな国があったんだよ。その国は一年中、やさしい桃色の花が咲き乱れていてね、まるでおとぎ話のような場所だったんだ。人々はみな豊かで心やさしく、争いごとはほとんど起きなかった。その国は少年の姿をした「...
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#595 夜をつかまえた

なあ、信じてくれるか分からないけど、俺、「夜」を飼ってたことがあるんだ。いや、比喩じゃなくて文字通りの意味でさ。あの日、まだ空が白み始めたばかりの午前五時くらいだったかな。散歩に出ようとしたら、マンションの植え込みの下に、なんだか黒くてキラ...
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#592 五人の僧侶

昔々、あるところに、ひとりの旅人がおったんじゃよ。その旅人はな、自分の蓄えさえ乏しいのに、困っている人を見ると放っておけない。それはそれは心のやさしい男だったんじゃ。ある時、男は険しい山道を越えて、遠くの町へと向かっておった。山の中は風が冷...
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#591 時喰らいの呪い

王都に最初の春の風が吹き抜けた日、凶暴な「時喰らい」の首を馬上に下げた騎士団長アルドが黒鉄の門をくぐって帰還した。胸当ては深く裂け、肩には鋭い爪痕が四本、血はまだ乾ききっていない。それでもアルドは手綱を放さず、部下たちに指示をとばしている。...