寝る前に

ちいさな物語

#544 時間の箱

俺の友人は、昔から少し変わっていた。いや、正確に言えば「変わった趣味」を持っていた。骨董品でも、昆虫標本でもない。彼が集めていたのは「使われなくなったもの」だった。壊れた目覚まし時計、期限切れの会員証、書きかけで放置された日記。本人いわく「...
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#542 琥珀色の帰郷

その村の名を、仮に「K郷」と呼ぶことにする。民俗学のフィールドワークとして訪れたその場所は、地図の上では等高線が重なり合うだけの、深い皺のような山間に隠れていた。バスは一日に二本、携帯電話の電波は村の入り口にある大きな杉の木の下でしか拾えな...
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#538 カレンダーの精霊が落とした一日

なあ、ちょっと聞いてくれよ。君は2019年の年末のことを覚えているかい?世界的な感染症の流行? それもそうなんだけど、その陰に隠れて、大規模なシステム障害があったの覚えてないかな。いや、正確には「永遠のクリスマスイブ」だったんだ。君もそうだ...
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#532 世界平和戦記

世界戦争が勃発した――とニュースが流れた。けれどキャスターは妙に穏やかで、画面の隅にはなぜかユーモラスな鳩のマスコットがぴょこぴょこと揺れていた。まるでホームビデオの紹介でもしているような画面だ。『速報です。ついに各国が平和的戦争に突入しま...
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#528 異世界ツアー案内人

あ、どうも。僕は異世界旅行社の添乗員をやってる者です。正式名称は「時空観光案内人」。担当はファンタジー世界。だけどまあ、だいたいの人は「ガイドの人」といったらわかりますかね。仕事の内容?一言で言えば、別世界へ行きたい人たちを連れて、安全(※...
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#527 喫茶メルヘン堂

駅前の大型ショッピングモールから少し離れた路地に、「喫茶メルヘン堂」という店がある。昭和のまま時間が止まったような喫茶店で、看板は色あせ、ドアはきしみ、テーブルは小さくて、椅子は座るたびにミシッと悲鳴をあげる。初めてその店を見かけたとき僕は...
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#526 アニマルファンタジー

登山を決行した朝は、ひんやりした空気に満ちていた。俺たち四人は久しぶりに会って、楽しく山を登っていた。大学で出会い、サークル活動を通して仲良くなり、長い時間を一緒に過ごした四人組。就職して半年、ようやく予定が合って登山の計画を立てることが出...
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#523 山からなんか来た

山からなんかきた日、俺はちょうどプリンを食べていたが、そのことはこのエピソードにまったく関係ない。とにかくそれは突然、町の放送スピーカーから始まった。「えー……山から……なんか来ています。以上」以上じゃない。「なんか」ってなんなんだよ。熊か...
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#520 祝祭のティールーム

そのティールームに入ったのは偶然でした。会社帰り、雨に追われるようにして駅前の裏道へ入り、古いレンガの隙間から漏れる明かりに引き寄せられたんです。木製の小さな看板には「景色が見えるお茶のお店」と書かれていました。その意味がわからないまま扉を...
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#519 隣の鳩

ベランダや手すり、エアコンの室外機、その隅々まで白や灰色の斑点が散らばっている。昨日の夕方に掃除したばかりなのに、もうこんなに汚れている。「チッ……」俺は舌打ちして窓を閉めた。原因はわかっている。隣に住む、あのじじいだ。じじいのベランダには...