寝る前に

SF

#486 転校生の秘密

あの日、教室のドアが開いた瞬間、空気が変わった。転校生の悠木さん。その瞬間、ざわめきすら止まったのを覚えている。誰もが彼女を見た。息をのむような美しさというやつだ。黒くてまっすぐな髪。光を吸い込むような瞳。ただの高校生とは思えない、異様な静...
異世界の話

#485 小さな光の魔法

この魔法は本当にくだらない。指をパチンと鳴らせば小さな光が灯る。ただそれだけ。熱もないし、眩しさもない。道を照らすにも弱すぎる。見せても笑われるだけだ。手品の一種だと思われているみたいだが、手品にしても地味極まりない。「そんな魔法、ホタルの...
ちいさな物語

#483 開かずの扉、開けます

俺の仕事は、開かずの扉を開けること。簡単に言えば、開けちゃいけない扉を開ける専門家。依頼があれば、どんな場所でも行く(出張費はいただきます)。仕事の分類上は鍵師だ。しかし鍵のかかった扉なら本物の鍵師がやる。俺の仕事はその後、鍵以外の超常的な...
ちいさな物語

#481 霜柱の神さま

冬の朝ってさ、空気が張り詰めてるだろ。息をするだけで、胸の奥まで冷えるようなあの感じ。俺は昔から冬の朝が好きだった。特に、霜柱を踏む音。しゃり、しゃりって音がたまらない。子どものころからそうだった。学校へ行く道すがら、道端の霜を見つけては、...
ちいさな物語

#479 記憶配達人

俺の仕事は配達人だ。……と言っても、新聞配達や宅配便とは違う。俺が届けるのは、「記憶」。人の記憶と世界のあいだに生じた矛盾を埋めるため、存在しなかった出来事を、あたかも「あったこと」のように届ける。そうすることで、世界は平穏を保つ。世界は、...
ちいさな物語

#477 雨の日だけ来る友だち

雨が降ると、彼はやってくる。そのことに最初に気づいたのは、私が9歳くらいの頃だった。梅雨時の薄暗い放課後、家でひとり退屈していると、玄関の呼び鈴が鳴った。覗き窓から見ると、見知らぬ少年が立っていた。青白い肌に黒い雨合羽を着て、髪からは水滴が...
ちいさな物語

#475 ツッコミは2秒以内

勇者として選ばれたとき、正直、少しだけ泣いた。幼い頃からの夢だったからだ。剣に選ばれ、神託を受け、命に代えても魔王を倒す。それが俺の運命――のはずだった。しかし、初めて仲間と顔を合わせた瞬間、これまでゆるぎなかった自分の運命に疑問を抱いた。...
ちいさな物語

#474 トンネルの中

その子に出会ったのは、本当に偶然だった。あの日、僕は出張帰りで、地方のローカル線の無人駅に降りた。帰りのバスまで時間があって、少し散歩でもしようと駅前の坂道を登っていたときだ。人通りなんてまったくない。途中の古びた案内板には、「隣町へ通じる...
ちいさな物語

#470 師匠と歩いた五日間

「師匠、さっきも休憩しましたよね?」「うん、したね。でも、また休憩したくなったんだ」いつも通りの返答だった。私は深くため息をついた。私の師匠、フェルディナント・エイグルは、王都でも名の知れた魔法使いだ。いや、一応はそう呼ばれているが、実際は...
ちいさな物語

#469 私は神様

最初にその地図を描いたのは、退屈な授業中だった。私はノートの端に自分だけの地図を描いて遊んでいた。丸い半島、曲がりくねった川、中央に大きな山脈。なんとなく名前もつけた。「レムリア大陸」。それはその時間だけの遊びのはずだった。でも、次の日、ノ...