#630 ハーブの種からヤバいものが生えてきた件

SF

いやね、ちょっと聞いてほしいんですけど、そもそも僕みたいなインドア派の人間がホームセンターの園芸コーナーに足を運んだこと自体、「丁寧な暮らし」という概念に脳内OSがカーネルパニックを起こしてしまったというか、思考アルゴリズムが暴走してしまったわけです。

普段の僕の世界はディスプレイのブルーライトとネット通販の段ボールに覆われていますから、緑豊かな植物なんて世界線が違いすぎるんです。

気付いたら「初心者向けハーブ栽培キット」を抱えてレジに並んでいました。

あの瞬間の自分をタイムマシンで戻って全力でグーパンして止めたいと、今でも切実に思っています。

まあ、買ってしまったものは仕方がないので、説明書どおりに植木鉢に土を敷き、小さな種を植えて、ベランダに置いて毎朝水をやることにしたんです。

ここまでは完全に普通の園芸であり、何一つ怪しい点はありませんでした。

問題が発生したのは、種を植えてから三日目の朝です。

普通なら、ここで可愛らしい緑色の双葉が顔を出すはずじゃないですか。

なのに僕の植木鉢から生えていたのは、どう見ても大型グラフィックボードの冷却ファンだったんです。

それもよく見たら、自作PCマニアなら誰もが知っている静音ファンメーカー製みたいな、高級感あふれるファンそのものでした。

お前はどこのNoctua製だよと、僕は植木鉢に向かって盛大にツッコミを入れました。

ハーブの種からパソコンのパーツが生えるわけがない、これは誰かの悪戯か、あるいは僕の視神経がドット抜けを起こしているんだと自分に言い聞かせました。

でもね、試しに水をジャボジャボとやってみたんです。

そしたら、その黒いファンが「シュィィィン」と静かに回り始めたんですよ。

光合成の代わりにファンの回転。

この時点で僕の頭の中のエコロジーの概念がゲシュタルト崩壊を起こしました。

それからの一週間は、まさに狂気の日々でした。

毎日ベランダで水をやるたびに、その謎の精密機器はすくすくと成長していくわけです。

茎に当たる部分は日に日に太くなり、気付けば完全に極太の銅製ヒートパイプになっていて、ギラギラとした金属光沢を放っていました。

葉っぱの先からは12VHPWR電源コネクタがぶら下がり始めました。

しかもご丁寧に、最新の12V-2×6規格に対応しているときた。

僕の頭の中のツッコミ担当が「なんで植物が外部からの電力供給を求めてるんだよ!」と大声で叫んでいました。

さらに数日が経過すると、ついに蕾、というかメイン基板らしきものが形成され始めました。

こうなるともう園芸ではなく、完全にベランダで行う自作PCの組み立て作業です。

僕は毎朝、液体肥料の代わりにエアダスターを吹くべきか本気で悩みました。

そして今朝、ついにその「大輪」が咲いたんです。

朝、ベランダからピッと電子音が聞こえたので見に行ったら、そこには神々しいRGB LEDを輝かせる最新型のグラフィックボードが、土の中にしっかりと根を張って鎮座していたんです。

しかも、ファンの隙間からかすかにペパーミントの爽やかな香りが漂ってきます。

いや、逆にこれ、中途半端に辻褄を合わせようとしているみたいで小賢しいですよ。どう見てもミントじゃないですからね。

これぞまさに、100パーセント有機栽培のオーガニック・グラボです。

性能を確かめたくて、僕は部屋からPCIeライザーケーブルと電源ケーブルをベランダまで引っ張り、メインPCに接続してみました。

すると、僕のパソコンが、その物体を「Unknown Organic Device」としてあっさりと認識したんです。

興奮のままにベンチマークを回してみたら、なんと現行の最高峰グラボの3倍以上のスコアを叩き出しました。

圧倒的な描画速度で、画面の中のゲームがこれまでにないほど滑らかに動きます。

マジかよ!

しかし、やはり生き物ですから、重大な問題がありました。

このグラボ、高負荷の最新ゲームをプレイしていると、みるみるうちにファンが悲鳴を上げ、葉っぱのように伸びた電源コネクタが萎れていくんです。

画面の中で激しい戦闘が繰り広げられると、植木鉢の土の水分が猛烈な勢いで蒸発して、カサカサになってしまいます。

ミントでいうと、収穫物である葉を摘みすぎてしまったみたいなことか? 知らんけど。

つまり、この処理能力を維持するためには、ゲームのプレイ中に1時間に1回は霧吹きで水をやり、週に一度はハイポネックスを与えなければならないんです。

僕は今、世界で唯一、最新のゲームを最高画質で快適に遊ぶために、隣の植木鉢にジョウロで水を注ぐという、最高に意味の分からないハイブリッド生活を送っています。

まあ、丁寧な暮らしと言えんことはない。

皆さんもホームセンターで種を買うときは本当に気をつけたほうがいいですよ。

それは植物の種ではなく、遺伝子組み換えの次世代半導体かもしれませんからね。

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