日常・現代

ちいさな物語

#305 視えぬ男

霊能者・桐山一郎はその名を全国に轟かせていた。迷える人々に救いの言葉を与え、霊を視る能力を持つと言われていた。予約は数年先までいっぱいになり、それでも相談したいという者が後を絶たなかった。「あなたの背後に憑いている女性の霊ですね。彼女は寂し...
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#304 地底湖の夢

きみは、地底湖って聞いたことあるかい?いや、ただの地下水や洞窟の湖じゃないんだ。本当に「誰も知らない地底の湖」の話さ。これは、ずいぶん昔、ぼくの伯父が地下鉄工事の現場で体験した出来事なんだ。もう時効だろうって話してくれた。そのころ、都会の真...
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#300 百年茶のひととき

古びた骨董店で、趣深い茶器を見つけた。棗(なつめ)、いや、茶入れと呼ぶのか。持ち上げてみると中身が入っているような様子だった。「これ、中はどうなっているんですか?」店主はかなり高齢で、茶器を見ると不思議なものを見るように目を丸くした。「おや...
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#296 幽霊探偵あらわる

「頼むよ、俺が見えるのはお前だけなんだ!」必死の形相で俺にすがってきたのは、自ら「死んだ」と言い張る男――山岸拓也だった。俺はただ呆然と立ち尽くす。俺だって幽霊なんか好き好んで見たくない。けれど生まれつき見えてしまう体質なのだから仕方ない。...
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#294 三つの扉

古い屋敷の奥、埃まみれの廊下の突き当たりに、三つの扉が静かに並んでいた。噂には聞いたことがあったが、本当にあるとは思わなかった。金色、銀色、そして黒――いずれも古びた装飾がなされているが、妙に目を引く輝きを放っている。私は親戚の遺品整理の手...
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#292 始祖鳥の夜間飛行

それは、ひっそりと静まり返った夜の博物館で起きた。展示室の奥、始祖鳥の骨格標本が眠るガラスケースの前を、夜警の坂本は巡回していた。ほんの僅かな違和感――空気の流れがわずかに変わったかのような感覚が、彼の足を止めさせた。懐中電灯の光を向けると...
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#290 繰り返される日常アニメからの脱出

目覚めて時計を見ると、毎朝決まって午前7時30分。
窓の外では必ず同じ小鳥がさえずり、同じ車が家の前を通る。「あれ、今日も昨日と同じだな」最初はそんなもんかと思っていた。しかし、何日経っても何も変わらない。学校に通い、同じ友達と話し、同じよ...
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#285 その花はなぜ名を呼ぶのか

「人間の名前を呼ぶんだってよ、その花」古びた山小屋でそう言ったのは、古くから馴染みのある植物学者の楠木だった。彼は湯気の立つマグカップを手に、どこか遠くを見るような目をしていた。「咲いたら最後、呼ばれる」場所は、東北の山奥にある無名の谷。地...
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#284 羅針盤の指す方

あの日、終電を逃してしまい、人気のない路地を歩いていた。街灯は薄暗く、遠くから犬の鳴き声が響くだけだった。そんな中、足元で何かが光った。拾い上げると、それは古いコンパスだった。いや、アンティークのような洒落たデザインでコンパスというよりは羅...
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#283 笑いの通り魔

「あの『笑いの通り魔』って、実は幽霊らしいよ」そんな話を聞いたのは数日前、会社帰りの居酒屋だった。街で噂の『笑いの通り魔』とは、夜道を一人で歩いていると、突然現れてジョークを叫び、人を笑わせて去っていくという謎の存在らしい。物騒な話ならごめ...